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ヨーカ堂が変わった セブン&アイ離れが奏功 現場に復権の気合いを感じる

  イトーヨーカ堂が変わり始めました。食品売り場に並ぶ商品棚の陳列、品揃え、品質から現場スタッフが発する気合を感じます。とりわけ鮮魚や野菜など生鮮品が輝いています。かつて魚売り場はパック詰の刺身が並び、どれも切り身は疲れ切った様子でしたが、今は鱗や目が光るイワシなど鮮魚が並びます。西京漬など調理した切り身や開きもおいしそう。生鮮品は仕入れ担当者の腕前が最も鮮明に表れる売り場ですが、「どうだ!変わっただろう」という心意気が伝わってきます。

鮮魚売り場が激変

 いつも通うヨーカ堂は開店から15年以上の歳月が過ぎています。当時、ヨーカ堂など総合スーパーはコンビニエンス・ストアや食品スーパーに客を奪われ、小売業態としては賞味期限が切れ始め、売り上げも客数も息切れ寸前。週に何度か通うヨーカ堂は総合スーパーの窮地を打開する旗艦店として誕生しました。最大の売りは食品売り場。

 食品のフロアは広く、総菜、乳製品、肉、鮮魚、野菜などが壁面を隙間なく連ねます。フロアの中央部は乾物類、お菓子、酒類などを陳列する大きな商品棚で埋まっています。「買いたい」と思う商品はかならずあると思い込むほど。見ているだけでお腹がいっぱいになりそうでした。

 セブン&アイの期待はかなり大きかったはずです。JR駅前に立地しますが、狙う商圏は南北にある私鉄沿線の住宅地域にまで広げていました。セブン&アイの取締役は「この旗艦店の成功を他の地域に移管して総合スーパー衰退の逆風を吹き飛ばす」と自信満々。

 出足はご祝儀も手伝って快調そのものでしたが、だんだん目に見えて客足が鈍り始めます。半年過ぎた頃から、開店業務を仕切った担当取締役は「隣接する老舗の食品スーパーの品揃えにはかなわない」と弱音を漏らし始めました。

商品はたくさんあるけど、どこでも売っている

 なんでもあるのだけれど、それはヨーカ堂じゃなくても買える商品がほとんど。セブンプレミアムなどプライベートブランド(PB)で他店との差別化を考えていたと思いますが、コンビニ「セブンイレブン」で買えるじゃないと誰もが考えます。担当取締役が「顧客の好みをしっかり把握するのは難しい」と解説する通り、大量の商品を並べても、すべてが売れるわけではありません。売れない商品は大量の在庫となり、経費として経営に重くのしかかるだけ。

 結局、この旗艦店の経営状況はヨーカ堂すべてに共通する課題でした。正解を見つけられないまま、業績は悪化し続け、2025年9月にセブン&アイは米投資ファンドのベインキャピタルにヨーカ堂など約30社を運営するヨーク・ホールディングスを売却します。

 ベインは日本でも多数の企業を買収しており、流通業ではスカイラークや大江戸温泉物語などを再建しています。セブン&アイがどうやっても復権できなかったヨーカ堂を立ち直させられるのかと疑心暗鬼でしたが、買収後の記者会見で「食品事業に特化して再建をめざす」と明言しました。

 正直いって、食品は小売業界でも最も手強い分野です。扱い点数は無限にあり、とりわけ生鮮品の仕入れは熟練の担当者による目利きが必須です。例えば食品スーパーで躍進するヤオコーをみてください。おはぎのヒットで知られる総菜コーナーが大人気ですが、鮮魚はいつみても並の水準、時には以下の水準も。

 ヨーカ堂も戦時中の大鑑巨砲主義を体現したかのような大規模店舗を展開しましたが、祖業が衣服店だったこともあって生鮮品はいつまで経っても苦手のまま。苦手意識は最後まで克服できませんでした。

 しかし、ヨーカ堂は復権の兆しを見せ始めています。ベインが8000億円を超える巨額資金を投入して買収したのですから、本気で再建するのは当たり前ですが、金の力だけで小売業の再建は成功しません。ベインが本気を出しても、ヨーカ堂を訪れるお客さんは品揃えに満足しなければ他店に向かいます。要は販売、仕入れ現場が本気を出すかどうか。上意下達の指令を守る従来のヨーカ堂から現場にやる気を引き出す経営に転換したのでしょう。

アキダイの秋葉社長は小売の強さを体現

 スーパーの強さとは何か。その答を知るには、いつもテレビニュースに登場するスーパー「アキダイ」の秋葉弘道社長を見てください。あんなに楽しそうに、しかも自信たっぷりに野菜を説明し、「おいしいよ」と言ったら信じるしかないでしょう。小売業の原点です。

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