
日本郵政、本社と現場が互いを信じ合えない組織に明日はない 混迷と諦めが漂う
「いやあ、窓口の私たちは信用されていないですよ」。郵便局の職員がため息をつきながら呟いた言葉に驚き、すぐには理解できませんでした。
満期を迎えたかんぽ生命保険を継続するため、近所の郵便局を訪れて一通りの商品説明を聞いて継続する意思を決め、やっと終わったと思ったら「実はもうひとつ手続きが残っているのです」と窓口の担当者が続けます。
窓口で契約しても本社の確認が必要
「何ですか?」
「本社の方からお客さんに電話があります。本社が改めて生命保険を契約するのかどうかを確認する手続きです」
「えっ、今ここで継続すると決めて伝えたじゃありませんか」
「そうなんですが、窓口の営業現場から本社へ契約成立を報告しても、本当にお客さんが理解して契約したのかを信じてくれないのです。本社が直接、お客さんに電話で本人確認から始めて特約など商品を理解しているか、本当に契約する意思を決めたのかを確認できるまで正式な契約とならないのです」
「それって二度手間じゃない? 今、郵便局窓口で商品説明を聞いて契約を決めた意味がないじゃないですか?それだったら、本社を訪ねて簡保の契約を済ませた方が早いじゃない? 1時間近くも窓口で相談したにもかかわらず、本社からまた同じ手続きの話をするなんて、時間を設定する手間も加わりお客にもっと負担がかかるだけでしょ」
窓口の職員はその通りですと頷きながら、悲しそうな表情で日本郵政の営業現場の惨状を説明してくれました。過去に発生した不正販売がきっかけでした。営業担当者に課せられるノルマを達成するため、保険契約の数や金額を水増しするなどが横行。契約する客が存在しないのにあたかも存在するかのように虚偽のデータを作成、あるいは実際と異なる契約内容を記入したり、手の込んだ不正行為が多発したのでした。違法行為を防ぐため、本社が本人確認、契約内容などを細々とチェックすることになったそうです。
もやもやした疑問が消えないので、本社のコールセンターに電話しました。そうしたら、もっと奇妙なことがわかりました。コールセンターのスタッフは本社が現場の契約を確認する手続きは知らないと答え、「あなたは騙されているのではないか」と怪訝な声で聞き返します。さらに「なぜ本社が確認作業する必要があるのか」と再び質問するので、「その理由を知りたいから電話したのです。コールセンターが知らないかんぽ生命の業務手順を客がなぜ説明しなければいけないのか?」と答え、これ以上は無駄と思い、電話を終えました。呆れました。
不信と不祥事は氷山の一角
かんぽ生命保険本社と郵便局の現場の間に広がる不信感。郵政民営化で誕生した日本郵政で沸々と噴き出す問題の多さを考慮すれば、氷山の一角に過ぎません。郵便配達の現場でも信じられない事態が起こっていました。
国土交通省は、ドライバーの就業前に飲酒などをチェックする点呼が適切に行われていなかったとして日本郵便の貨物運送事業許可を取り消す方針を示しました。配送に使うトラックなど約2500台が5年間使えなくなります。国交省は配達用のバイクや軽バンについても処分対象に検討しており、郵便事業の根幹が大きく揺らぐのは確実です。
問題の発覚は2024年5月、横浜市の郵便局で酒に酔ったドライバーが配達する問題が明らかになりました。日本郵便本社が点呼の徹底を通知しましたが、全国で調べた結果、集配業務を担う郵便局の75%で点呼が徹底されないことがわかりました。なかには虚偽の記録を作成した郵便局もありました。体調や飲酒の有無を運転前に点呼で確認するのは基本中の基本。法令遵守という当たり前のことを当たり前にできない現場の惨状が常態化しているようです。
霞ヶ関・メガバンク出身の経営陣への意趣返し?
日本郵政の組織が腐り始めているのです。5年間務め、今度交代する増田寛也社長は人口減に熱心だけでも経営には無関心。コンプライアンスの徹底を繰り返しますが、経営は霞ヶ関とメガバンクから”天下り”した幹部にお任せ。
初代社長の西川善文氏は出身の三井住友銀行らしい収益重視の組織に改革しようとしましたが、郵政公社時代に育った営業現場がついていけるわけがありません。不祥事が相次ぐと、今度は経営幹部は霞ヶ関流の責任逃れ、言い換えれば幾重にも監視の目を増やすコンプライアンス体制を敷き、現場の一挙手一投足を縛ります。
一方で民営化の成果を上げるため、メガバンク流の利益追求を現場に強いることに。現場の職員は右に行こうとすると左から引っ張られ、挙げ句の果ては「現場のやっていることは信用できない」を理由に叱咤される。この繰り返しが続けば、どんな組織でも腐り始めます。親戚に特定郵便局長がいたものですから、内実は痛いほど知っています。
「魚は頭から腐る」という例えが浮かびます。現場を知らない経営陣がいくら未来を語っても、もう現場は聞く耳を持っていないのではないでしょうか。かつて最強労組の一つと言われた全逓とは異なる世界が現場に広がっている印象です。相次ぐ現場の不祥事は、何を語っても聞いてくれない経営幹部の意趣返しのように映ります。互いに信頼できない組織は確実に壊れます。日本郵政の明日が全然、見えません。