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すき家のゼンショー、ワンオペ教訓忘れてゴキブリ駆除しても病巣は残ったまま

 今でも「餃子の王将」に足を踏み入れる気がしません。1980年代初め 経済紙の新人記者として「餃子の王将」の東京・新宿店で発生した食中毒を取材しました。当時は外食産業を担当しており、ファミリーレストラン、ファストフードなど急成長する飲食業が取材対象で、餃子の王将もそのひとつ。どの外食企業も全国展開を急いでおり、売上高はどんどん伸びていましたが、店舗を運営する人材が追いつかず、いろいろな騒ぎが発生しました。

食中毒が発生した餃子の王将を思い出す

 餃子の王将は1967年に京都市で創業し、1978年に東京・新宿に関東1号店を開店しました。安くて美味しい中華料理が食べられるので、すぐに人気を集めましたが、食中毒を何度か起こします。どんな店舗なのか取材に訪れ、調理場を覗きました。学生時代に中華料理店でアルバイト3年間、経験しており、調理場の内情も知っているつもりでしたが、想像を上回る衛生環境に驚き、一歩も足を踏み入れたくないと思ったほどです。

 餃子の王将は衛生管理に努力しながら、今は全国に700店を超える全国チェーンに成長し、売上高も1000億円を超えています。安くて美味しいとの評判は変わらず、大人気の外食チェーンとなっていますが、40年以上も前の新宿店のシーンがどうしても忘れられず、お店に足が向きません。

 牛丼の「すき家」が3月31日から4月4日まで2000店近いチェーン店をすべて休店します。鳥取県の店舗でみそ汁にネズミが、東京都昭島市ではゴキブリの一部がそれぞれ混入する不祥事が相次ぎ、店内清掃を徹底して害虫対策します。すき家を経営するゼンショーホールディングスは「このような事態を招いてしまったことを大変重く受け止めております」「お客様および関係者の皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけいたしますことを深くおわび申し上げます」と謝罪し、一時閉店することを決定しました。

調理現場であってはならない事件

 飲食店は害虫など異物混入対策で全店を休店するのは極めて異例です。お客さんに提供する食べ物に害虫や害獣などが混じることはあってはならないことであり、調理現場で最優先する事項です。学生時代にアルバイトした中国料理店でもゴキブリ、ネズミの駆除は繰り返し実施てしおり、毎日の清掃、チェックは料理提供者として当たり前の日常業務でした。

 そんな当然のことを、なぜすき家はできないのか。経営自体に欠陥があるからではないでしょうか。害虫、害獣に例えれば、ゼンショーの経営そのものに「獅子身中の虫」が潜んでいるのです。

 ゼンショーは1982年、創業者の小川賢太郎さんが「全勝、善商、禅商」の三つの意味を込めて命名したそうです。「世界から飢餓と貧困を撲滅する」を企業理念に掲げ、「世界中の人々に安全でおいしい食を手軽な価格で提供する」を謳います。創業の持ち帰り弁当から、吉野家で仕事をした経験から牛丼の「すき家」を始め、その後は積極的な買収で事業を拡大。傘下に収めたブランドは「ビッグボーイ」「ビクトリアステーション」「ココス」「ジョリーパスタ」など。

 外食業界でトップクラスの収益力をあげています。ただ、経営規模が本来の力を超えてしまい、社名の由来「全勝」だけが前面に出てブラック企業の汚名を恐れずに収益を追求する経営に翻弄されているように見えます。

 例えば「ワンオペ勤務」。10年以上前に社会問題になり、すき家がブラック企業の代名詞になりました。24時間営業のすき家は深夜も1人で店舗を切り盛りする「ワンオペ勤務」を敷いていましたが、過酷な労働実態が広く批判され、女性店員が死亡しているのに気づかないという事態も起こっています。2012年以降、労働基準監督局から多くの是正勧告を受けていました。、すき家の労働実態を調べた第三者委員会の報告によると、月500時間以上働く社員、2週間帰宅できない社員がいました。昔の新聞記者並みです。ブラック企業を徹底すれば儲かるのです。誰もやらないことをやれば利益が出るのですが、「安全に美味しい食を手軽な価格で提供する」の企業理念は雲散霧消しています。

ワンオペ勤務の教訓はどこに?

 ゼンショーは2014年から店舗の労働環境改善を経営の最重要課題に位置付け、第三者委員会と職場環境改善促進委員会を設けて外部の意見をもとに経営改革に取り組んでいます。HPには「誰もが働きやすい職場へ」と題して全国2000店を地域別に分けてきめ細かく管理するほか、経営と労組が長時間労働を防ぐ提案や指導を続けていると説明。深夜勤務は複数勤務に切り替えました。

 対策は講じました。しかし、魂は込もっていたのか。異物混入の発生は、どうみても調理の衛生管理を現場に任せ切っていたことがわかります。仕事に追われ、ゴキブリやネズミの駆除が後回しになる。料理を提供する時も、ネズミ混入に気づかない。店舗のスタッフに余裕が全くなく、お客の注文をこなすのが精一杯という現況が鮮明に浮かびあるだけです。だからこそ、全店休店しなければ、異物の駆除ができない羽目に陥るのです。

経営のあり方を見直す時期

 ゼンショーすべての外食企業に当てはまるかどうかはわかりませんが、主力のすき家は店舗運営がまだまだ不十分であり、10年前の2014年から開始した「ワンオペ勤務」から得た教訓はなにも生かされていないことがわかります。

 ゼンショーは自らの経営が抱える害虫・害獣をどう駆除するのか。創業者の小川会長兼社長兼CEOが全権を握る経営のあり方を見直す時期が訪れているのではないでしょうか。

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