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中国 BYD 6割増のEV販売 車はもうレゴ?2年間で240万台超も増産できるの!

 めちゃくちゃ素朴な疑問です。中国のBYDの生産能力についてです。「どうやって生産しているの?」。首を傾げざるをえません。

 BYDは2023年の世界販売台数が前年比62%増の302万台と発表しました。販売する新車は電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHV)の2車種のみ。ライバルに比べて価格を低く設定したうえ、売れ筋のセダンを加え中国はじめ欧州、日本を含むアジアで攻勢をかけて拡販に成功。2023年の目標としていた300万〜360万台に手が届きました。

3年間で販売台数は5倍に

 新車販売の勢いは驚異的です。2021年は約 60 万台、2022年は185万7000台。1年間で3倍超の伸び率。そして2023年は302万台ですから、わずか3年間で5倍も膨らみました。2年間で240万台超も増産した計算です。凄い!!ため息しか出ません。

 乗用車、トラックを販売していますが、2023年を車種別でみると乗用車が300万台とほとんどを占めます。このうちEVが157万台で73%増。PHVが143万台で52%増。23年はEV、PHVとも小型車を投入して購入層を広げ、価格競争でシェアを勝ち取った構図です。米国のテスラを抜いて世界のトップに躍り出るスピード感には舌を巻くしかありません。

 BYDは元々、1995年2月にバッテリーを軸に創業し、2003年に自動車に進出しました。現在は自動車以外に鉄道車両にも手を広げています。ホームページでは現在は、6 大陸に 30 を超える工業団地を設立し、エレクトロニクス、自動車、再生可能エネルギー、鉄道輸送に関連する産業に事業領域を柱に育てていると説明しています。

でも、生産体制がよくわからない

 もっとも、「凄い!」の一言で収まりきらない自動車生産を実現する工場の能力はBYDのホームページで見る限り、よくわかりません。直近でタイやブラジル、ベトナムなどで9工場を新設し、他社の遊休工場2~3カ所も活用しているという情報を見つけたぐらい。欧州でも生産する計画もあるそうです。

BYDが掲げたキーワード(ジャパンモビリティショー)

 2023年の販売台数300万台は中堅自動車メーカー1社分に相当します。わずか5年程度で生産能力を増やすことができるのでしょうか。モヤモヤした疑問を解くために頭の体操をしてみました。ホームページには「30の工業団地」があります。30の工業団地が全て自動車生産しているわけではないと思いますが、自動車を生産しているという前提で試算してみました。

 手がかりはBYDがタイで発表した2024年に操業を始める新設工場の能力。年間15万台です。1つの工場を15万〜20万台と想定します。30ヶ所で自動車をフル生産した場合、450〜600万台。世界一の販売台数を記録するトヨタ自動車の場合、年産900万台弱。今後の販売計画を考えたら、BYDはトヨタの3分の2の水準まで生産能力を引き上げる可能性はあります。しかし、どうみても現実的ではありません。

モビリティショーでは自動ラインの動画を流し続ける

 謎を解くヒントはあります。2023年10月に開催したモビリティショーでBYDが自社ブースで公開した生産体制の動画です。車両の金型プレス、溶接など自動化ラインがフル操業する映像が流れ続けていました。人の姿は見当たりません。実際の工場の自動化率は不明ですが、BYDが対外的にアピールしたいのは、自動車産業の常識を超えた生産ライン。わずか3年間で世界販売を5倍に増やし、それに見合う車両を生産、供給できるのだ。こう訴えているのでしょう。

 確かにEVはエンジン車と違い、部品点数が違います。エンジン車は3万〜5万点の部品を結集して完成します。これに対し、かなり単純化していますが、EVは電機モーターなどの駆動系、バッテリーなどのシャーシーという大きな枠組みで組み立て、合体すれば出来上がります。BYDはバッテリーなど主要部品を内製化しています。いわゆる垂直統合型の生産体系を構築しているので、外部の部品メーカーから調達する他の自動車メーカーと違って柔軟に、そして機敏に生産体制を変えることができるのかもしれません。

大枠の部位をレゴのように嵌め込む?

 大枠で製造した部位を組み付けて生産増強を実現しているのでしょうか。まるでブロックを嵌め込む玩具のレゴの部品をクルマに仕上げているかのよう。レゴは玩具ですから、多少ずれても問題はありません。自動車は人の命に関わります。3年間で部品点調達を5倍も増やして操業する生産現場はちょっと想像できません。BYDの生産ノウハウには不思議がいっぱいです。

 BYDにノウハウはあると考えています。2010年に金型メーカーのオギハラの館林工場(群馬県館林市)を買収しました。オギハラは世界でトップクラスの自動車用金型技術を持っており、世界の自動車メーカーから発注が集まり、その工場を見学すれば次期モデルがどんなデザインかわかると言われるほどでした。中国企業に買収されたことで、日本の生産技術が流出するとの批判もありましたが、それほどの会社をBYDグループに取り込む発想は素晴らしい。金型以外にも自動車生産の革新に挑戦するアイデアがいくつも生まれたのかもしれません。

EV生産はエンジン車の常識を超えている?

 EVの自動車生産は常識をはるかに超えた発想と挑戦が必要なようです。車両ボディのプレス加工でテスラが一体成形するギガキャストを採用し、日本でも話題になりましたが、日本でも同様の発想は20年以上も前にありました。大きな違いは日本のメーカーは採用しませんでしたが、テスラは採用しました。EVで世界を支配するためには、日本やドイツなどがエンジン車で極めた常識、ノウハウを捨て去り、果敢に挑戦する勇気が必要なのでしょうか。

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