半導体のラピダス、大阪・関西万博と同じ道を歩み始めた

 日本の半導体産業の復権をかけた日の丸プロジェクト「ラピダス」。日本は2000年代に韓国、台湾に追い抜かれ、今では競争力のカギである高精細の加工技術で大きく遅れをとっているにもかかわらず、半導体の回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルという極めて難しい世界最先端の半導体の量産を目標に掲げています。

目標の2ナノは至難の業

 遅れを取り戻すためには技術力、設備投資、人材育成が急務です。日本政府や民間企業が兆円単位で支援していますが、次々と課題が噴出しており、資金はまだまだ足りていません。大きな花火を打ち上げながらも、前進しているのか、あるいは足踏みしているのか。同じような風景をどこかで見た気がしました。後から後から追い銭を求める大阪・関西万博です。当初は素晴らしい構想をぶち上げましたが、いつの間にかプロジェクトを率いるリーダーシップがどこかへ消え、誰が責任を負うのか不明に。なんとなく巨額資金が費やされていく不安と悲しさを覚えてしまいます。

 ラピダスは2022年、トヨタ自動車、NTTなど日本を代表する8社が参加して設立しました。会長は東京エレクトロン社長を務めた東哲郎さん、社長は日立製作所やウエスタンデジタルなど半導体業界を知り尽くした小池淳義さんがそれぞれ就任しています。中国の半導体産業の勃興を横目に睨み、経済産業省は日米の経済安全保障の観点からラピダスの後ろ盾となっています。目標とする線幅2ナノの半導体は2027年量産を目指しており、2030年には売上高1兆円を達成する意気込みです。

資金需要はまだまだ続く

 日本政府はすでに9200億円の支援を決めており、2021年からの3年間で総額3兆9000億円を予算上で設定するほど気合が入っています。過去の日の丸プロジェクトと比較しても、力の入れ具合の違いが鮮明にわかります。出資企業も1000億円を集め、今後の設備投資の資金需要に備えています。

 しかし、それでも資金が不足しているようです。現在、北海道千歳市で建設している半導体工場は2024年秋に建物が出来上がり、半導体の生産設備を搬入します。2025年4月から工場を計画通り、操業させるためには1兆円の資金が必要で、量産に移行するためには合計4兆円を調達しなければいけないそうです。

 ラピダスはまだ生産を始めておらず、半導体の品質もカタログ上の数字です。顧客が不在のまま、兆円単位の資金をかき集めることが難しいのは素人でもわかります。いくら日の丸プロジェクトと華々しく褒めあげても、銀行や企業はラピダスの信用力を底上げて評価するわけにはいきません。日本の半導体復権、経済安保など日本経済の未来を支えるお題目が並んでも、新たな資金需要に応えて安心して資金供与する担保にはなりません。

 最後に頼りになるのは政府の財布でしょうか。過去の日の丸プロジェクトの悲惨な末路を思い出してください。残念ながら、政府が中途半端な支援に終始し、経営破綻する事例ばかりが浮かんできます。近い将来、2ナノの量産化、顧客開拓などにつまずけば、ラピダスが事業として離陸するまでに資金が枯渇する恐れは消えません。

成否を占う材料は大阪・関西万博?

 ラピダスの将来を占う材料はすぐ目の前にあります。2025年4月に開幕する大阪・関西万博。斬新な構想を発表して以降、建設費は膨張する一方です。2020年12月に建設費は1250億円から1・5倍の1850億円に増加。23年11月には500億円を上積みして2350億円に膨らみました。当初計画の2倍近く増えました。建材費や人件費は引き続き、高騰していますから、最終的にはちょっと目にしたくない数字にまで膨張するのではないでしょうか。

 なぜ、こんなに万博の予算見積もりがいい加減なのか。政治の駆け引きに利用されたからではないでしょうか。2014年、大阪維新の会の橋下徹大阪市長、松井一郎大阪府知事が低迷する大阪、関西の経済を復権させるためにぶち上げました。2017年、維新の会との連携を狙った安倍晋三首相は万博の誘致を決め、建設費などの予算もざっくりと決まった経緯があります。建設費とは別途に運営費なども大まかに決まっており、その数字も膨れています。

 いくら開催費用が膨らもうが開催が決まっているから、なんとしてでも資金を集める流れです。政府、自治体、関西経済界が責任を負う構図とはいえ、万博の開催価値と見合うのか甚だ疑問です。政治主導で決まったプロジェクトの典型例です。国民が支払う税金が使われるのですが、まるで国や自治体が支払っているかのような議論にも疑問を覚えます。

 ラピダスのプロジェクトは政府が深く関与していますが、まだ企業、経済の合理性が残っています。ただ、支援の大黒柱が政府ですし、まだ五里霧中の段階にある半導体の技術開発が頓挫したら、経済合理性よりも政治の論理が決定権を握るでしょう。2025年春に開幕する大阪・関西万博を眺めなら、ラピダスの未来がどう見えてくるのか。想像すると、ちょっと怖い。

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