伊藤忠も「うれしい値!宣言」、セブン創業家とMBO でファミマとの再編も視野
伊藤忠商事がセブン&アイ・ホールディングスの創業家などと共にセブン&アイに対しMBO(経営者による買収)を提案しました。カナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けており、カナダ社の提示額7兆円を上回る9兆円規模の膨らむ見通しです。伊藤忠はメガバンクや投資ファンドなどと創業家を支える立場ですが、実現すれば系列「ファミリーマート」と「セブンイレブン」の連携に道が拓きます。単独で買収することを考えれば、伊藤忠にとってお買い得の案件です。
MBOは経営者自らが自社の株式や事業部門を買収して、経営権を取得する手法です。株式を上場している場合、株主に対する責任を負うほか、投資ファンドやライバル社などからM&Aを仕掛けれらる可能性があります。経営者自らが掲げる経営戦略を貫くため、公開した株式を買い集めて非上場化すれば他人の目や声を気にする必要がなくなるわけです。最近増えている所以です。
9兆円調達が必須
セブン&アイの場合、イトーヨーカ堂創業者の伊藤雅俊氏の次男、伊藤順朗副社長と創業家の資産管理会社・伊藤興業(東京)が提案しました。伊藤興業はセブン&アイ株を約8%保有する大株主でもあります。先に買収提案しているカナダ社は7兆円を提示していますから、MBOを成功させるためには7兆円を超える金額提示が迫られます。カナダのクシュタール社はコンビニなど企業買収を何度も経験している強者です。当初から7兆円で手打ちできるとは思っておらず、落とし所として8兆円以上を想定しているはず。
必ずMBOを成功させるためには9兆円を上回る資金調達が必要。誰でもできる算数です。ところが、創業家の伊藤社長、資産管理会社が捻り出したとしても9兆円を目の前に山積みするのは不可能。セブン&アイの時価総額は6兆円を超えますが、保有株式8%で換算しても手が届かないのが明白です。残る兆円単位の資金をどう調達するか。メインバンク1行だけで融資するのはリスク管理上できないので、メガバンク3行が協調融資する方式がまず浮かびます。
現経営陣は退陣へ
もっと重要なのは、仮にMBOが成功したとしても現在の経営陣に任せられません。本来なら井阪隆一社長ら経営陣が先頭を切るのが筋ですが、創業家を引っ張り出して資金力を頼っているます。もともと、カナダ社から買収提案されたのも、井阪社長らの経営が業績低迷を招き、つけ込む隙を与えたのが引き金です。創業家の伊藤副社長に頼った時点で、井阪社長らの退陣は必至と考えるのが順当です。
それではセブン&アイの経営を任せるのは誰か。セブン&アイは主力のセブンイレブンのほかにイトーヨーカ堂などスーパーを傘下に収めていますが、業績不振のヨーカ堂はそう遠からず切り離す方向です。大黒柱のセブンイレブンもコンビニ業界トップの地位を守っていますが、ライバルのファミリーマートやローソンに比べ業績が低迷し、最強伝説は崩壊寸前。
繰り返しになりますが、井阪社長はセブンイレブンの創業者・鈴木敏文氏を追放して実権を握ったものの、ヨーカ堂の再建に失敗し、大黒柱のセブンイレブンの収益まで下げてしまっています。セブンイレブンを建て直す企業、経営者に委ねるしかありません。そうしなければセブン&アイに何も残りませんから。
伊藤忠のファミマとの連携視野
さすがです。伊藤忠の岡藤正広会長はチャンスを見逃しません。三菱商事、三井物産を追撃する伊藤忠は石油・ガスの資源部門で遅れを取っていますが、衣料や食品など日常用品では十分に上回る経営力を持っています。ファミマの好調ぶりからわかります。セブンイレブンを飲み込めば、コンビニの1位、2位を傘下に収め、大きな小売業グループを形成することができ、セブンイレブンの復調も見えてきます。三菱、三井の背中ももっと近くに見えてきます。買収に伴う兆円単位の資金調達は、総合商社にとっては手慣れたもの。なかでも岡藤会長の剛腕ぶりは知れ渡っています。メガバンクも安心して資金を提供できます。
セブンイレブンは、ファミマやローソンと比べて価格が高いという消費者の声に応え、「うれしい値!宣言」と呼ぶ割安キャンペーンを夏に展開しました。その成果は不明ですが、伊藤忠の岡藤会長の目には文字通り「うれしい値!」と宣言したいほどの買収物件が目の前に現れた気分でしょう。飛びつかないわけがありません。