探偵はいつも「小太郎」に④「笠地蔵が支えてくれた」火事で消失した必需品が毎日、店の前に
「お伽話の笠地蔵のようだったのよ。毎日、お店の前にお皿など必要なものが並んでいる。こんなに応援してくれるんだもの。できないわけがないと思った」。小太郎の女将は呟きました。
2014年11月、テナントとして入居していたプリンス会館が全焼し、小太郎は閉店を余儀なくされました。鎮火した後、お店に戻って被害状況を見た時、「なにもかもすべてを無くした」と実感したそうです。再開するには、新たな店舗を探し、改装や備品などに多額の資金が必要。絶望するのは当然です。さすがです。へこたれる人ではありませんでした。プリンス会館から少し離れた場所で再開します。
再開予定の店舗にお銚子や野菜などが・・
数ヶ月後、札幌を訪れて新たな「小太郎」を訪ねました。まずは女将さんが元気でお店を切り盛りする姿を見てホッと。いつも通り、日本酒を飲み「ようやく小太郎に戻ったなあ」と感激していたら、「笠地蔵ってお伽話を知っている?」と問いかけてきました。「笠地蔵って」と脳内の記憶を検索すると、テレビ「まんが日本ばなし」の「ぼうや〜良い子だ、寝んねしな」の歌が聞こえ、市原悦子さんと常田富士男さんの声が蘇りました。
雪国に暮らす貧しい老夫婦は年末、餅を買うお金がないため、お爺さんは手作りの笠を町で売ろうとします。残念ながら売れ行きは悪く、笠を売ることを諦めて帰路へ。途中、吹雪の中でお地蔵さま6人が寒そうに並んでいました。お爺さんは売れ残りの笠をお地蔵さまの頭に被せていきましたが、手持ちの笠では一つ足りず自分が被っていた笠をお地蔵さんに差し上げます。家で待っていたお婆さんは笠が売れなかったことを気にせず「良いことをした」と迎えたそうです。
その夜、音がするので扉を開けると、家の前に米、餅、野菜、魚、小判などが積まれていました。周囲を見渡すと、笠をかぶった6人のお地蔵さまが吹雪の中を歩み去っていました。お地蔵さまのおかげで老夫婦は良い新年を迎えることができたそうです。
女将の好みを知り尽くすお客さん
小太郎の場合は常連客らに再開を伝えた直後から始まりました。開店準備のためにお店を訪れると、木戸の前にお銚子や盃、お酒、お皿、野菜などが並んでいました。ほぼ毎日だったそうです。CDなどオーディオ関連の製品もありました。お店のBGMは女将が好きなジャズを流していましたが、置かれるCDはちゃんと女将好みのものばかり。女将とお客さんの距離の近さがわかります。「以前のお店をそのまま再現できないけど、店内の空気はあの時と同じ。そう感じてもらえるようにしよう」と覚悟が決まったと言います。
語る表情が素敵でした。とても穏やか。お店を再開できたとはいえ、多くの財産を失い多額の資金を費やしました。でも、長年通ってくれたお客さんに支えられ、これからも続けられる力を体中にみなぎっていたからだと思います。
笠地蔵は今の時代なら、クラウドファンディングになるのでしょうか。再建資金を集める例を見かけます。大阪・お初天神の親しくしていたお店は、階下のお店が火元の火事に巻き込まれ、全焼しました。お店の大将は再建を断念する気持ちでしたが、イタリア料理の修行をしていた息子さんが跡を継ぐと頼み込み、息子さんの提案で再建資金の一部をクラウドファンディングで集めて成功しました。
居酒屋の財産はお客さん
居酒屋の財産はお客さんといいますが、その価値は計り知れないものです。改めて痛感します。