
クルマは誰のモノ 次世代モビリティは人間を忘れ、人工知能が楽しむ?
きっと5年後、クルマはびっくりするほど様変わりしているはず。100年以上もエンジンで走り回った乗り物は、電気か水素燃料で走り、ひょっとしたら空を飛んでいるでしょう。進化という表現が正しいのか疑問ですが、クルマの概念は様変わりしています。
自動車は過去、今はモビリティ
自動車という呼び名はもう過去の言葉。モビリティと呼ばれ、地上、天空、時には水中を移動するマシンと化しているのかもしれません。
といっても、エンジン車が消えるわけではありません。自動車草創期のクラシックカーに心を奪われるファンがかならずいるように、1950年代の名車人気は相変わらず。2025年には1980年代に大ヒットしたスポーツカーが相次いで復権します。ホンダのプレリュード、マツダのロータリー・・・。後期高齢者となったカーマニアが興奮するニュースが飛び交います。
もちろん、かつての人気ブランドを名乗っているものの、走行性能、インテリアなど中身は全面刷新。20歳代の若い世代も注目するモビリティとして再び表舞台に登場します。
自動車開発が異世界に突入しています。100年以上も前に自動車が発明されて以来、エンジンや足回りなど操縦安定性が重視されてきましたが、CO2などを含む排ガスは地球温暖化を招く主因と名指しされ、エンジン車はすっかり悪役に。代わって電気自動車(EV)が新たな主役としてスポットライトを浴びますが、EV開発の焦点がなかなか定まりません。
わずかこの5年間だけをみても、開発のカギとなるキーワードがいくつも湧いてきます。駆動系を担う電気モーター、航続距離を左右するバッテリー、生産効率を高めるボディ成型、そして人工知能を活用するカーナビゲーション、エンターテイメント・・・。次世代を担うEVの開発が進むにつれて、コンセプトを定めるキーワードはもっと増えるはずです。
最先端技術を結集した素晴らしいモビリティが誕生する予感はあります。しかし、あまりにも開発に没頭し過ぎているせいか、みんなが待ち憧れるモビリティが目の前に出来上がるのか不安になってきました。
ソフトウエアがすべてを決める
例えばSDV。Software Defined Vehicle(ソフトウエア・デファインド・ビークル)は、EVの走行性能やエンターテイメントなど機能や操作が電子化されるため、クルマを楽しむ価値が電子機能を制御するソフトウエアに頼る次世代車を意味します。
パソコンやスマホで体感している基本ソフト(OS)の更新を思い出してください。ドライバーや乗客の命を守る自動運転、あるいは到着先まで移動する時間を楽しむ映画や音楽の鑑賞などをいかに安全安心、そして満足できる水準を維持するのか。修正すべきバグや機能などを日々、更新し続け、モビリティはどんどん進化していきます。
マイクロソフトがWindowsでパソコン本体を生産するIBMを凌ぐ収益を稼ぎ出し、パソコン市場の未来のカギを握った時代と同じことが自動車産業でも始まるのです。自動車メーカーの収益源は1台売ることだけでなく、販売後にソフトウエアを更新して新しい付加価値を生み出することに主軸になるでしょう。
人工知能(AI)の開発も見落とすわけにいきません。米テスラのイーロン・マスク氏が航空宇宙とともに注力しているのが人工知能の開発です。生成AIのオープンAIには創業時から深く関与してますし、自身でもxAIを設立して自身が開発に熱中する人型ロボットやEVへの搭載を急いでいます。人工知能を搭載したロボットやモビリティはまるで一緒にいる人間の友人のようにコミュニケーションし、サポートするはずです。
ここで素朴な疑問が浮かびませんか。EV、あるいはモビリティは誰のために? 開発があまりにも実際に利用するドライバー、乗客から手の届かない世界で続けられ、果たして望む製品ができあがるのか。そのEV、モビリティは自動車メーカーやIT企業のために開発される恐れはないのか。それとも人工知能の能力を無限大に引き出すために利用されることはないのか。
モビリティは常に安全安心を
SDVや人工知能の開発はとても素人に理解できるものではありません。専門家にしか理解できないブラックボックスで進みます。自動車、EV、モビリティどう呼ぼうが、主役はいつも利用する人間です。エンジン車は過去100年間にわたって技術が公開されてきました。それが安全安心の根底にあるのです。
本格的なEVが日本に登場したは15年前の2010年。日産自動車が「リーフ」を発売しました。経営不振で当時人気のハイブリッド車開発で出遅れていた日産にとってエコカー巻き返しの一手でしたが、失礼ながらそれはそれはシンプルな電気で動く自動車のレベルでした。でも、これからの進化が始まるスタート地点と考え、「リーフ」を取材した思い出があります。
それから15年、EVは爆進ともいえる最先端技術を飲み込みながら、変貌を続けています。もうシンプルなんて言葉は相応しくなく、よく訳のわからないモビリティになってしまう恐れすら感じます。EV、モビリティの将来に夢を託すためにも、自動車メーカーはSDV、人工知能の開発の「見える化」を進める必要があります。