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ロータリー発電のハイブリッド車発売 マツダはロータリーエンジンを継承するために車を造る

 マツダのロータリーエンジンの開発を率いた山本健一さんにお会いした時から、もう40年近い歳月が過ぎました。当時はマツダ社長。新車開発の話題になると、口から解き放たれる言葉と熱量はクルマが大好きな青年のまま。ロータリーエンジンの話題に移れば、もう表情は少年のよう。当時、私はまだ20歳代の若造でしたから、心の中で「社長がこんなに熱かったら、マツダはどんな会社?将来は大丈夫?」と生意気に心配したものでしたが、今思えばとても貴重な瞬間でした。

山本健一さんは少年のように

 その後、マツダの経営は波乱万丈の時を迎え、全然大丈夫じゃありませんでしたが、ロータリーエンジンは今も生き続けています。この40年間を振り返ると、マツダは自動車メーカーとして生き残るというよりは、ロータリーエンジンを継承するために車を造り続けてきた歴史といえるかもしれません。異常とも思えるこだわりは車の開発すべてに徹底され、他社メーカーとはまったく異なる色合いを放つマツダの個性を生み出しているのですから。

 マツダは2023年9月、新型ロータリーエンジンを搭載したプラグインハイブリッドモデル「マツダMX-30 Rotary-EV」を発表しました。発売は11月から。ロータリーエンジンを搭載しているといっても、役割は発電機。ハイブリッドを機能させる蓄電量が不足したら、小型ロータリーエンジンが稼働し発電します。

 本来なら駆動力すべてを生み出すエンジン車を投入したかったはずです。しかし、世の中の潮流はエンジン車から電気自動車EVへ。「ロータリーエンジンは燃費が悪い」という過去の記憶が広く残っているだけに、エンジン車としてのリボーンは見送らざるを得なかったのでしょう。

ロータリーへの執念は凄い

 マツダの執念にはいつも敬服せざるを得ません。2012年に量産を終了してからも、なんとか復活を遂げたい思いを守り続け、捨てるなんて微塵も考えていません。今回の小型発電機としてロータリーエンジンを利用するアイデアも本音は次に向けた布石でしょう。

 ロータリーエンジンは1950年代、ドイツ企業が開発に成功した後、多くの企業が実用化を目指しましたが、最終的に量産化にこぎつけたのは唯一マツダだけ。1967年5月、ロータリーエンジンを搭載した「コスモスポーツ」を発売しました。その後、石油危機で高騰したガソリン代の影響を受け、その燃費の悪さが致命的な打撃を受けます。他の追随を許さない加速力や気持ちの良い駆動回転に魅せられたファンは多く、スポーツカーとして存続しましたが、結局は「RX-8」を最後に姿を消します。個人的にも「サバンナ」の頃から憧れの車でした。幸いにも「RX-7」「RX-8」を乗り回す機会がありましたが、東京湾の自動道を雲の上を滑るように快走した感覚は今でもはっきり覚えています。

 マツダの執念を改めて知ったのはフォード傘下で経営再建している最中でした。ロータリーエンジンは経営破綻寸前に追い込んだ主因です。経営再建がうまくいかず、メインバンクの住友銀行が主導する形でフォードと提携し、その後傘下の子会社としてフォード出身者が社長だった頃です。

 技術開発計画などを取材していると、ロータリーエンジンが必ず話題になります。燃費が悪いガソリンでダメなら、今度は水素を使ったエンジンの開発の可能性を盛んに説いていました。エンジン車の主力であるレシプロに比べて、水素以外にも多様な燃料を使えるロータリーエンジンの特性を活かせば復活の時は再び訪れると確信していました。

 当時、親会社のフォードが送り込んだ社長はハーバードMBAを取得し、利益重視を徹底。「変革か死か」が口癖。その後、親会社の社長にも就任した人物です。損失を生んでも利益は生まないロータリーエンジンを認めるわけがない。それでも、技術陣は公然と研究開発を進めます。心の底で「変革するわけないじゃない」と叫んでいます。誰でも最敬礼すると思います。

EV全盛の時にロータリー車が走る風景を見たい

 「マツダがロータリーエンジンを捨てるわけがないでしょう」。技術者の皆さんは当たり前のように話します。ただ、「再び主力車として復活するのは難しいけれど、水素などを使えるエンジン特性はより環境性能が重視される時代に受け入れられるはず」と続けていました。

 カーボンニュートラルが必須の時代を迎え、自動車メーカーを取り巻く経営環境は大きく変わりました。今回の発電機としての登場は、久しぶりにお会いしたぐらいのあいさつ程度。「これからもっと頑張りますから」と名刺1枚を渡された感覚です。水素の本格利用にはまだ技術的課題が残っていますが、脱炭素時代の内燃機関エンジンの主役として躍り出て来る日を期待したいです。なんといってもロータリーエンジンは設計思想、単純な部品構成などすべてが格好良い。EV全盛の時を迎えても、平然とロータリー車が走っている風景は素晴らしいじゃないですか。

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