青森駅前の新鮮市場 変わらぬ昭和の味と空気が「めぇ!」

 コロナ禍も収まってきたので、お墓参りを兼ねて東北を回ってきました。

 実家のお墓は縄文遺跡で有名な三内丸山のすぐそばにあります。両親は生まれも育ちも青森市。私も出身は青森市。ただ、父親の転勤ですぐに北海道の函館市に移り、その後はねぶた祭やお墓参りなどで青森市をよく訪ねていました。当時は青函連絡で行き来します。水上勉の「飢餓海峡」のイメージを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、津軽海峡を渡る連絡船から見える風景はおいしい食べ物が生まれ育つ豊かな海そのものでした。

コンパクトシティの象徴「アウガ」の地下1階

 両親ら祖先が眠る三内のお墓をお参りした後、菩提寺を訪ね、青森駅前のホテルに泊まりました。翌朝、駅前ビルにある「アウガ(AUGA)」地下1階の「新鮮市場」に向かいます。もう20年以上も前の話ですが、青森市は少子高齢化社会の対策として病院や市役所、商業施設などを都心に集める「コンパクトシティ」を推進、その先進事例として全国から視察が訪れ、注目を集めた時期がありました。「アウガ」はその象徴的なビルとして建設されました。しかし、開業した2001年から赤字が続き、コンパクトシティ構想は頓挫。アウガはテナントの入れ替えが続き、開業当初から残っている唯一の商業施設が地下1階の新鮮市場です。

 昭和の時に訪れた青森駅前市場の記憶はかすかに残っています。青森の名産品リンゴをいっぱい詰めた木箱が山積みにされ、甘い香りが漂うのですが、薄暗くておっかなびっくり歩き回ります。リンゴ以外にもたくさんの魚介類がど〜んと店頭に置かれ、お客さんとお店が津軽弁でやり取りするのをおもしろがって見ていたものでした。ちなみに当時も今も津軽弁は聞き分けできず、理解もほとんどできません。

 新鮮市場は期待を裏切りませんでした。もちろん、当時に比べ衛生管理は徹底され、フロアは明るい光があふれています。店頭に陳列される魚介類、野菜、乾物などはどれもうまそう。ナメタカレイなど魚の肌の艶が違います。大好物のホヤはちゃんと天然と表示されています。水ダコも極太い脚が何本も並べられ、鮭の筋子は店の照明を反射して赤く輝いています。鯨のベーコンは真っ白な肌を見せて大きなブロックとなってあぐらをかいていました。歩きながら、口の中で唾液が湧いてくるのがわかります。

あんこうのとも和えは絶品ですよ

 最初に購入したのは「あんこうのとも和え」。知っていますか。あんこうといえば鍋かあん肝が有名ですが、とも和えは絶品です。日本酒と一緒に味わえば、「うまい」と声が出ます。ちなみに津軽弁ではたっぷり感情移入された「めぇ」で伝わります。調理法は知りませんが、あんこうの白身と皮を茹で上げ、肝を味噌やお酒などと一緒にあえています。母親がよく料理してくれました。見た目は美しくはありませんが、味は抜群。地下1階のフロアを歩き探し回り、一軒だけ売っているお店を見つけて即買いました。

                        陸奥湾のしゃこ

 頭の中は夜にあんこうのとも和えで日本酒を飲むことでいっぱいになったせいか、勢いがつきました。しゃこを見つけます。最近、食べてない。函館にいたころは、3時のおやつ代わりに食べていました。しゃこの甲羅をきれいに剥けるようになったら、一人前です。しゃこのすぐ横には陸奥湾のクリガニが氷水の中でいました。毛ガニより小ぶりですが、味が濃くてうまいカニです。

                      クリガニ

 大好きなツブが串に刺さっていました。こちらも小さい頃は腹が減ったらお菓子代わりに食べていましたが、最近は大きいツブは高級品です。居酒屋でうっかり注文できません。

                      串刺しのつぶ

 新鮮市場はぐるぐる回りながら、これから10時間ぐらいかけてクルマで帰ることを考え、購入する魚介類を選びました。高級魚となっているナメタガレイ、水ダコ、鯨のベーコンなど買っても鮮度の良いうちに食べ切れるか悩みます。断念します。

 その時、「自家製鯵ヶ沢産かわはぎの日干し」が目に飛び込んできました。思わず「かわはぎ」と声を出したら、店主が駆け寄ってきて「昔はこんな魚はいらないと漁師は海へ戻していたんだよなあ。いまじゃ高級魚だよ」と話しかけてきました。「ほんと、そうですよね」「手間もかかるから、最近は鯵ヶ沢でも日干しは作らない。自分で作るしかない。だから他では買えないよ」。うなずき、これなら家に帰っても1週間ぐらいは新鮮市場の味を楽しめると確信しました。

                      かわはぎの干物

津軽弁に懐かしい思い出がおいしさを醸し出す

 津軽弁は最近、テレビでタレント「王林さん」で聞く機会が増えましたが、やはり市場で聞く津軽弁の方が味わいを覚えます。忙しいそうに魚を並べ、すぐにお客さんとやりとりする市場の風景は小さい頃と変わりません。どの店も買った魚は新聞紙で包んで渡してくれます。何十年ぶりかの経験です。「これうまそうだなあ」と目を凝らしていくつものお店を回り、最後に選んぶ時の不安は市場ならではのエンターテインメントです。夜遅く家に到着して日本酒を飲みながら、食べた市場のサカナはどれもうまかった。子供の頃の青森の思い出も一緒に食べていたからでしょうね。歳を取ると、小さいころの味が恋しくなるのは本当です。

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