
ヒグマの肉がブームに?人間と自然の共生、それとも共食い
ヒグマの肉が新たなジビエブームになるのでしょうか?
例年の2倍も注文
1月2日付けの北海道新聞は、北海道の食肉加工会社に例年の2倍以上の注文が寄せられていると伝えています。ヒグマの肉は流通の仕組みがなく大半が廃棄されてきましたが、全国でクマの出没や被害が広く報道されるたためか、一度は食べてみたいという好奇心でクマの肉を口にする人が増えたようです。仏料理に「ヒグマコース」も登場したそうです。
そういえば、2年前の2023年10月、NHKが放送したヒグマの番組でも、興味津々に肉を食べるシーンがありました。「牛の仇を取ってやった」など焼肉を食べる場面としてはちょっと違和感がある言葉が続き、驚いた記憶があります。
その番組はNHKスペシャル「OSO18 “怪物ヒグマ” 最期の謎」。「OSO18」は北海道東部で60頭以上の牛を襲い、罠を見抜く高度な知能と人間を極度に警戒する慎重さから「怪物」と恐れられたヒグマのコードネームです。OSOは最初に被害が発見された標茶町の地名の略称で、足跡18センチのヒグマを意味します。この足跡から専門家は体重は300〜350キロ、立ち上がると体長3メートルの巨大グマと推定しました。
NHKの「OSO18」でも
NHKが2022年9月に「クローズアップ現代」で初めて取り上げ、11月にはNHKスペシャルで特集。怪物OSO18がどんなヒグマなのかを解明するとともに、牛や人間の被害を防ぐために駆除するハンターたちの姿を追いました。ベテランのハンターでも追跡できず、巧妙な罠も見抜く。「遠くからこちらを監視しているはず」と言われるほどの賢さがいつ襲われるかわからない怖さを醸し出しました。
地域を上げての懸命な捜査が続けられましたが、2023年7月に地元ハンターに駆除されたことが判明。処分された肉片や皮から採取したDNAから推定とは異なる標準的なヒグマだとわかりました。
ところが、物語は終わりません。もっと恐ろしい続きがありました。怪物と知られた神秘性なのか、東京などへOSO18の肉は売られ、ジビエ料理の店で人気を博します。番組では「(襲われた)牛の仇をとってやった」と話す客、NHK記者が「思ったより柔らかい」「クジラに似た雰囲気」などコメントするシーンが流れます。牛を60頭以上も襲ったヒグマが、なんとジビエ食材としても人気を集めるとは・・・。
シカやイノシシなど獣肉を食べるジビエ人気が続いています。農作物の被害拡大によって駆除した後、食肉として出回る機会が増えたうえ、低カロリーで高タンパクの食材として注目されているからです。農林水産省のデータによると、食肉処理施設で加工されたジビエは2016年度で1283トンでしたが、8年後の2024年度は2678トンと2倍も増えています。
そのジビエ人気に2025年、熊が新しいメニューに加わったのでしょうか。背景には北海道、東北を中心に熊が市街地を歩き回り、スーパーや家に入り込んだり、突然襲われて死亡する事例が増え、連日テレビなどで報道されます。自然環境の変化で熊が常食する木の実などが減るなどいくつかの理由によって山から降りざるを得ない状況にもかかわらず、時には面白おかしく伝えられます。
共生のバランスが崩れる
人間と熊の共生は可能なのでしょうか。「人口190万人の札幌は熊と共生する世界でも稀な大都市」。もう15年以上も前、北海道大学でヒグマの第一人者と呼ばれた教授はこう解説していましたが、北海道の知床半島でも熊と人間が棲み分けが世界遺産に選ばれる理由の一つになっています。
熊の猟も命の尊さを最も大事にしています。秋田県のマタギ、北海道のアイヌは猟で山に入る時、かならず自然と神に感謝します。動物、植物の生命をいただき、自分らの命を繋いでいく。自然の理です。
北海道のオホーツクに面する別海町出身の河崎秋子さんは、直木賞を受賞した小説「ともぐい」で人とヒグマの闘いを通じて自然と人間が互いに食い合い、命を継承する物語を描きました。偶然ですが、別海町はOSO18が発見された標茶町と隣接しています。
しかし、最近の熊出没は、人間と熊などと共生できるバランスが崩れていることを教えています。共生できないなら、人間がヒグマやツキノワグマをジビエとして食するしかないのか。なぜ熊は人里に降りてくるのかを解明しなければ、人間と熊は「共食い」しているだけになってしまいます。

