2024年問題と自動物流道路「未来が見えない霞が関」が見えてくる
「自動物流道路」構想が動き始めました。トラック運転手の不足が深刻化する「2024年問題」や車による排出ガス削減などカーボンニュートラルを念頭に高速道路の地下や中央分離帯、路肩などに専用レーンを整備し、自動輸送のカートで荷物を運ぶ新しいシステムを実用化します。
高速道路などの空間を自動パレットで輸送
未利用の空間を新たな物流ルートを創出する案は現実的な解決策と見えますが、実用化に必要な技術と経験、投資など待ち構えるハードルはとてつもなく高く、数十年後の実用化を想定するテーマもあり、2024年問題の解決には全く間に合いません。日本の交通体系、物流問題はもう30年以上も前から課題が指摘されていました。国土交通省など霞ヶ関が日本の近未来図を描けず、弥縫策の典型とも言える行政を見せつけられた思いです。
岸田首相は4月22日のデジタル行財政改革会議で、自動物流道路の実現に向けて夏までに想定ルートを選定するよう指示し、本格的に動き出しました。国交省は2月と3月に「自動物流道路に関する検討会」を開催し、専門家や運送会社から意見を集めており、夏には中間報告をまとめる方針です。
議事録から課題が浮き彫りに
検討会の議事録を見ると、具体的な課題が浮き彫りになります。
「ドライバー不足対策やトラック交通量の減少・CO2排出量削減とするならば、トラックが大量に走行している東名阪がターゲット」
「地方部でのドライバー不足解消のために地方の拠点間の輸配送を自動物流道路が担うことや、モーダルコネクトの観点からJR貨物と連携できる区間も想定できる」
「自動物流道路が運ぶ荷物は、規格化・パレタイズ化されていることが必要。標準化は長年議論されているが実現できていない」
「鉄道ダイヤには限界があるので、自動物流道路がそれを補完していくものになることを期待している。さまざまな輸送モードへの対応が理想だが、全てのユーザーニーズを網羅するのは難しいと思われるので標準化や情報化を進めることは本プロジェクトを実現させる重要なポイント」
技術面で発想の転換も指摘されています
「フィジ カルインターネットの議論も進められているが、自動物流道路はフィジカルインター ネットの一部を構成するイメージになる」
フィジカルインターネットとは、インターネットで利用されているパケット交換を物流システムに移植する考え方です。輸送する荷物を交通渋滞や輸送能力の負荷などを考慮して、適宜に最適なルートを柔軟に変えていきます。一瞬の状況を判断して指示する高度なデジタル技術が欠かせません。岸田首相がデジタル行財政会議で自動物流道路の推進を指示したのも、日本のデジタル技術を飛躍的に高めることが急務だからです。
フィジカルインターネットも発想は以前から
議事録を眺めただけでも、すぐにわかるのは日本の現在の実力でみれば、自動物流道路は構想というよりも夢想の状態です。例えば東名道路を活用するとしても、300キロに超える長距離を自動パレットが安全に、しかも貨物を損傷させることなく配送するためには技術開発だけでなく長期間の輸送実験を必須です。
仮にフィジカルインターネットを事業化したとしても、東京、大阪、名古屋など大都市圏にまで届けられたとしても、地方に分散して目的地に届けるためにはヤマト運輸や日通などの大手だけでなく地元の中小運送会社も対応しなければいけません。壮大な時間と投資が必要なだけでなく、地方の中小企業の経営にも大きな影響を与えます。
自動物流道路に異論を唱えているわけではありません。とても期待しています。ただ、日本経済の大動脈ともいえる物流の多様化は1980年代からモーダルシフトなどの考え方で議論されていました。フィジカルインターネットという言葉になってしまうとデジタル技術の産物と考えがちですが、発想とともに具体的な輸送ルートの分散化はさまざまな図解で紹介されていました。
2024年問題を2024年に議論するとは
まして2024年問題やカーボニュートラルは昨日、今日の問題ではありません。もうずっと前から実現に向けて着手しなければいけないテーマでした。日本経済の根幹に関わる問題を取り組むのが霞ヶ関であり、自動物流道路は明らかに国交省の仕事でした。2024年問題に向き合わなければいけない2024年に自動物流道路の構想を改めて目の前に突き出させれると、霞ヶ関の実力、先見性に疑問を持つのは当たり前じゃないでしょうか。