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アフリカが世界的な炭素税導入を呼びかけ 排出権取引市場と共に巨額資金を取り込む思惑も

 ついにアフリカから世界規模の炭素税導入を求める宣言が登場しました。地球温暖化の影響はアフリカでも干ばつなど深刻な天候異変を招いており、これまでの欧米主導の気候変動論議にクギを刺すとともに、炭素税など気候変動対策に伴う巨額資金をアフリカに呼び込む狙いもあります。炭素税は日本も含め先進国の多くで喫緊の課題として検討しているものの、実際に本格導入しているのは北欧などわずかの国々。地球温暖化対策に合わせて誕生する新制度、それに伴い誕生する莫大な資金を巡って先進国と途上国の駆け引きがさらに激しさを増すのは確実です。

ナイロビ宣言をCOP28に

 ナイロビ宣言と呼ぶのでしょうか。アフリカ20カ国が参加した初めての気候サミットがケニアで開催され、干ばつなどの災害対策、CO2排出を抑制する再生可能エネルギーの活用などが議論されたそうです。多くの対策を具体化するためには巨額の資金が必要になるため、欧米やアジアなど温暖化ガスを大量に排出する先進国を中心に炭素税を課す制度導入が提案され、宣言に盛り込まれました。今年末にドバイで開催する気候変動に関する国連の会議であるCOP28で提案する方針で、世界を網羅する炭素税が新設されるかどうか。激しい論議が展開されそうです。

 先進国と途上国の間で気候変動対策に必要な資金援助は、何度も議論されています。過去の気候変動の国際会議でも南太平洋の島嶼国が海面上昇による海岸線や港湾設備を喪失する事実を説明し、このままでは国土が消えてしまうと訴えています。アフリカでも干ばつや砂漠化の加速などで農作物の不作や水源の喪失が恒常化し、飢餓問題などへの取り組みを急いでいています。先進国側は地球温暖化対策を実行するため、途上国に対し基金設立などを提案し、資金援助する方針が示していますが、巨額の資金の負担方法などで交渉が難航、進展していません。

先進国の過去の資金援助とは違う

 しかしながら、今回のナイロビ宣言は過去に議論されてきた資金援助の構図とは違います。先進国から途上国へ一方的に資金援助するのではなく、CO2の排出権を売買する市場を利用して先進国から巨額資金を集める発想です。世界的な炭素税の創設を呼びかけるのは、排出権市場の売買で欠かせない資金・信用を創造するためのようです。

 排出権取引制度とはCO2などの温暖化ガスを対象に国や企業に排出枠を設定し、CO2の排出量が枠を超える場合、排出枠に空きがある国や企業から空き枠分を金銭で購入し、超過分を相殺する金融取引です。CO2を大量に排出する国や企業は権利の売買を通じて、排出枠を死守した形となり、枠を販売した国や企業は資金を手にできるわけです。

 「アフリカの炭素吸収源は比類のない経済の宝庫」。ケニアのウィリアム・ルト大統領の発言が全てを表しています。ロイターなどの情報を参考にすると、アフリカはブラジルなど南米に次ぐ世界第2位の大きさを誇る熱帯樹林が広がっており、大量のCO2を吸収する生態系が整っています。

排出権の資金化を狙う

 工業化がさほど進んでいないアフリカではCO2排出量は世界の11%を占める程度。つまり残る90%近くのCO2排出量分を販売できる余裕があるわけです。先進国や大企業が炭素税で支払う資金を排出権取引市場で取り込めば、その資金を国の発展に活用できます。ケニアだけで見ても、年間60万以上の雇用と6億ドルの資金収入につながるとの試算があるそうです。アフリカ全体で炭素税を活用した排出権取引が本格化すれば、年間数百万トンのCO2を売買でき、金額的にも数十億ドルに相当するという見方も飛び交っています。

 ただ、炭素税の導入や排出権取引市場は欧米で始まっているものの、世界全体でみるとまだ助走期間のレベル。日本を見ても、炭素税を導入していると説明してはいますが、ガソリンなどにわずかに課税されている程度です。導入している国もわずかで、むしろ炭素税や排出権取引市場はまだ本格稼働しているとは言えません。

アフリカ主導の炭素税は世界経済をどう変える

 アフリカで初めて開催した気候サミットで公表されたナイロビ宣言は、世界レベルで炭素税を広め、排出権取引の本格化を後押しするきっかけになるのかどうか。アフリカは21世紀後半の世界経済を牽引するといわれています。そのアフリカが主導して炭素税が動き始めたら、世界経済の構図はどう変わるのでしょうか。かなり興味深いテーマです。

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