24年ぶりの1㌦140円 有事の円は無事か 150円突破なら「日本売り」

 ついに1ドル140円台に手が届きました。1998年8月以来ですから24年ぶりです。2022年1月は115円台でしたから、8ヶ月で25円の円安です。個人的な見方で今年初めは130円台までの円安は予想していましたから、正直驚いていませんが、140円はちょっと早かったかな。円は「有事に強い円」といわれていきました。ロシアによるウクライナ侵攻などまさに有事の真っ最中ですが、円は腰砕けしそうです。これからは「有事の日本経済で円は無事か」を注視する時代に突入しました。150円を突破したら、「日本売りが始まった」と覚悟を決めるしかないです。

1998年の円安の病巣は金融機関の破綻など

 24年前の1998年8月、懐かしいです。ドル円は1995年4月19日に初めて80円を割って79円台に突入していますから、3年ちょっとで60円も円安になりました。1985年9月のプラザ合意後、ドル円は240円台から150円ぐらいまで一気に進む衝撃的な円高を間近に見ていましたから、98年の円安に対してはちょっと不感症気味かもしれませんが、「プラザ合意の時と比べれば、こんなこともあるさ」ぐらいに受け止めていた記憶があります。為替相場に翻弄される当事者ではなく、取材対象としてしか日本の企業動向を見る癖が抜けず、ピントがズレていたことに気づかなかったのです。

 1998年の前年97年は山一証券や北海道拓殖銀行など金融破綻が相次ぎ、日本経済の屋台骨は揺れに揺れていました。といっても、山一は「にぎり」「とばし」と呼ばれる不正な簿外取引、拓銀はバブル経済時の過剰な不動産融資がそれぞれ主因です。日本経済の根幹が問われたとはいえ、バブル経済の後始末を先延ばしてきた財政・金融政策のツケや不備が引き金でした。病巣は明快でした。

2022年の病巣は根深く、広く浸透

 2022年8月の円安は日本経済の実力そのものが問われています。病巣が根深く、知らない間に広く浸透していると考えています。円安加速の背景には日米の金利差拡大に対する憶測があります。米連邦準備理事会(FRB)が速いテンポで大幅利上げを続け、大規模な金融緩和を続ける姿勢を崩さない日銀との温度差を見逃すわけがありません。毎年8月末、FRB議長は「ジャクソンホール会議」で講演しますが、パウエル議長は家庭などに多少の犠牲があっても強いインフレ圧力を抑える考えを強調しました。米金利の上昇を見込んだドル高が進み、対ユーロ、対アジア通貨それぞれに対しも強いドルが反映され、ドルの独歩高となっているのが現状です。

 円安には日本経済の実力低下を見込んだ動きも反映されています。ロシアによるウクライナ侵攻で石油や天然ガスなどエネルギー価格が高騰しているほか、世界的な食糧不足などが加わり、日本の輸入支払いは急増しています。日本の貿易赤字は拡大し続けており、円売り・ドル買いが止まらず円安の勢いも止まりません。日米金利差の思惑、実需の円売りが重なり、そこに投機マネーが追い討ちをかけ、予想以上に速いテンポで140円まで駆け上がったと見るのが筋でしょう。

日本経済の実力低下が円売りに

 有事に強い円といわれる理由は、巨額の経常黒字を計上し続ける国際収支を背景に世界最大の対外純資産国の地位を守ってきたことです。巨額の政府債務や人口減によるマイナス材料が並び、経済成長率も低いにもかかわらず、日本は国債を含めて安心・信頼できるとの評価を維持してきました。しかし、2022年に入って変調します。1月には過去2番目の経常赤字を計上し、エネルギーや食糧の価格高騰が背中を押すように経常黒字は縮小、赤字の傾向が続くとみられています。貿易収支、所得収支などマクロの数字を見ていると、じわりと日本経済の蓄えが目減りしているのがわかります。

 日本の稼ぐ力が一時的な低下なのか、それとも再び浮揚できるのか。日本経済の潜在力に自信を持てれば、円安の動きは止まるでしょう。しかし、そんな楽観は許されそうもありません。その象徴が賃上げです。企業収益は回復していますが、政府の応援を受けながらも賃上げ率は相変わらず2%を行ったり来たり。大企業の財務内容は内部留保が膨張し続けており、改善しています。にもかかわらず、企業が賃上げしないのは国内経済で稼ぐ自信がないからです。日本の企業が日本の未来を楽観視しないなら、海外の投資資金は「買い」から「売り」に回るのは当たり前の結論です。買われるのは東京など大都市圏の不動産ぐらいでしょうか。

 為替の投機筋では、米国経済が停滞の兆しが見始めたら、パウエル議長は金利引き上げに慎重になるか、引き下げるのではないかといった観測もあります。そうなれば「ドル売り円買い」のチャンスだと。果たしてそうなるでしょうか。米国経済が停滞して、日本経済だけが好調という構図はとても考えられません。ドル売りの機会は訪れると思いますが、その時も円売りは続く公算は否定できません。

日銀、財務省はもっと饒舌に説明を

 1ドル140円の壁を打ち破った今、目の前に見えるのは足腰が弱ってぼっと立っている日本経済なのでしょうか。まだ体力は残っています。ドル高円安の話題をみていると、パウエル議長やイエレン財務長官のコメントばかりが目立ち、日本の財務省や日銀からの説明がほとんど見当たりません。もっと饒舌になってください。沈黙し続けていたら、「日本売り」の噂は本当だとなってしまいそうです。後ろを振り返ったら、土俵の徳俵に足が引っかかっていただけ。そんな風景が浮かんできます。

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