自治改革と地域密着の相克 芦屋市議会が外部起用の教育委員を否決

 兵庫県芦屋市には良い思い出しかありません。わずか1年間ですが、住んだことがあります。人事異動で単身で大阪勤務となったため、富裕層が住む街として知られる芦屋市を体感したいと考え、住居を決めました。大阪市と結ぶ神戸線は便利ですし、食べ物がおいしい。和洋中、焼き鳥、ジャズバーどれも間違いありません。なによりもパンとケーキのレベルが全く違います。街の主人公は芦屋市民。地元が日常生活を楽しめるようにできていることに改めてびっくりしました。

芦屋は全国最年少市長が当選、過去に女性初の市長も

 その芦屋市で4月、日本で最も若い26歳の市長が誕生したニュースを見た時も、芦屋市ならと納得したものです。灘高、東大、そしてハーバード大学という経歴も、芦屋ならと納得。そういえば女性初の市長も芦屋市。日本でも洗練された都会と思い込んでいた芦屋市ですが、突然「地方」を考えさせる話題が目に入りました。

 芦屋市議会が12月1日、高島崚輔市長が提案した教育委員の人事案を反対多数で否決したのです。任期満了を迎えるとなる教育委員の後任に、今年6月までさいたま市の教育長を務めた細田真由美さんを起用する案でした。神戸新聞によると、芦屋市で人事関連議案が不同意となったのは、少なくとも1999年以降で初めてだそうです。

 候補者の細田さんは2018年6月から5年間、さいたま市で教育長を務めており、今年9月に芦屋市が連携協定を結んだ東京大学公共政策大学院の講師も務めています。高島市長は、芦屋市役所にインターンとして入り、職員と一緒に仕事を経験したそうですが、その際は「あえて空気を読まない質問」を心がけたと話しています。市長選で刷新を掲げて無所属で当選したのですから、地方自治体として最も重要な政策の一つ、教育行政で新風を吹き込みたいと意気込んだはずです。

地元出身じゃなければダメか

 神戸新聞によると、審議の中で反対討論として「遠方に住んでいて、月2回の委員会活動、市内の行事への参加などが困難ではないか」「他にも多くの役職を務められているので、芦屋の教育が最優先されるかが疑問」などと指摘されたそうです。「芦屋とのゆかりが薄い」との声もありました。

 正直、意外でした。確かに地方自治体の行政は地元と密着して進めなければいけません。首長や市町村議員の選挙の当落はもちろん、行政を進める上で地元合意などを上手くまとめ上げるためには、事情を熟知している地元出身者かどうかが問われることが多いのも事実です。私が育った青森県を見ても、津軽か南部かなど江戸時代の藩を引き摺って支持、不支持がまとまった場合もありました。

「若者、馬鹿者、よそ者」と言うけれど

 しかし、日本全体が人口減、経済の沈滞などの窮地に直面し、答えを出せないでいるのが実情です。地方を活性化するキーワードとして「若者、馬鹿者、よそ者」と言われて久しいですが、過去に囚われず地方行政を改革しようとしても、利害関係が絡み合う地方ですんなり「若者、馬鹿者、よそ者」に手渡すわけにはいかないと考える人がいるのも当然でしょう。

 地方が次代に向けて新たな答を見出すためには必要と理解しても、これまでの歴史を否定されるような大胆な決断は受け入れられない。このジレンマは常に並走します。1970年代から「地方の時代」と言われながらも、この50年間を振り返れば地方は衰退の流れを止めることができません。「変わろう」と連呼するのはOKでも、本当に「変わってしまう」のは待って欲しい。日本国民の本音なのかもしれません。このまま地方は衰退し続けるのでしょうか。

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