玄海町があぶり出す「消滅自治体」の宿痾 東京など電力消費都市は静観許されず

 原子力発電所、核燃料再処理、原子力船・・・。原子力関連の計画を巡る市町村の重い決断を見てきました。中・高校生時代に育った青森県で目撃した下北半島の六ヶ所村の核燃料サイクル構想まで遡れば、もう50年以上の歳月が過ぎました。新聞記者の新人時代は、「原発銀座」と呼ばれた福井県、石川県の北陸をベースに原発取材が日常のテーマ。当時の福島第1・第2原発も先進事例として訪ねたこともあります。その後、東京電力などエネルギー業界を主に担当する幸運にも恵まれ、すべてではありませんが、多くの原子力・核関連の計画を取材することができました。

受け入れは地域にとって苦渋の決断

 残念ながらと言って良いのかどうか。どの地でも目撃し体感したのは、現実と将来を直視して下す苦渋の決断。このままでは地域は消滅してしまいかねない。不安と焦燥感が首長、住民の背中を押します。福島第1原発事故の後、東電の対応に強く抗議する農家の声を聞きましたが、家族は東電に勤務していました。農水産業以外に頼る産業がなく、新たな雇用を生み出すために原発を受け入れざるを得なかった「浜通り」の現実を改めて突きつけれた思いでした。

 直近では佐賀県玄海町でしょうか。国は2024年5月1日、玄海町に原発が排出する「核のごみ」の最終処分地の選定に向け、国は文献調査の実施を申し入れました。その1週間後の7日に玄海町の脇山伸太郎町長が齋藤経産相と会い、「私も大変悩んでいるが、もう少し理解を深めたい」と話し、検討を進める意向を示しました。

文献調査で最大20億円の交付金

 処分地を選定する調査は進行状況によって3段階に分けられ、文献調査は最初のステップに過ぎません。玄海町は4月に調査受け入れを求める請願が町議会で採択されています。過去の事例を念頭に置けば国・経産省は水面下で玄海町と調整しており、5月1日の申し入れ、経産相との面会など一連の手続きは儀式に過ぎず、調査を受け入れる可能性は高いと見て良いでしょう。

 最終処分場の選定で名前が上がるのは玄海町が初めてではありません。すでに北海道の神恵内村と寿都町の2町村が文献調査に応募し、2020年11月から調査を開始しています。長崎県対馬市、高知県東洋町も検討していましたが、見送られる見通しです。 

 日本は東日本大地震が発生する前までは原発が供給する電力に大きく依存しており、発電量の25%を占めていました。しかし、原発が排出する高レベル放射性廃棄物、いわゆる核のゴミを最終的に保管する処分地は決まっていません。原発が「トイレなきマンション」と言われる理由です。

 玄海町は九州電力の玄海原発が立地しており、最終処分場として調査が始まれば、原発が立地する自治体としては初めてです。日本の原発が稼働し始めた1970年代から50年以上も過ぎて、ようやく「原発のトイレ」が隣接地に確保できるかもしれません。

高齢化と過疎化が進行

 調査の受け入れに動く自治体に共通しているのは高齢化と過疎化の進行です。地域の将来、自治体の行政サービスを考えれば、新たな財源が必要です。処分地選定に適しているかどうかを資料調査する第1段階の文献調査を進めれば、最大20億円の交付金が支払われます。調査結果によって受け入れを拒否しても支払われます。第2段階であるボーリング調査などを含む概要調査に移れば交付金は最大70億円に。支払う財源は電源立地地域対策交付金で、電源開発促進税として電力会社に課せられており、この税は電気料金に上乗せされています。

 脇山町長は経産相との面会後、「最終処分場の問題は、全国的に議論や関心が高まることが大事だと感じていて、その点では玄海町で最終処分場の話が出たことが全国の議論に一石を投じたように感じている。自分としても、この問題については全国の関心が高まる活動をしていきたいと思っている」と話しました。

 まさにその通り。最終処分場を受け入れるかどうかは過疎に悩む自治体だけの問題ではありません。原発で発生した電力は送電網を介して大都市に供給されます。首都圏が営業地域の東電が福島県、新潟県で世界でも最大級の原発基地を建設しただけで足りず、東北電力と共に下北半島に東通原発を建設している事実でわかると思います。

原発関連施設を地方に押し付ける構図

「トイレなきマンション」と冷ややかに眺めている立場にはありません。東京や大阪など大都市の繁栄、日本全体の活動は電源立地を受け入れている地方の市町村に支えられているのです。

 神恵内村、寿都町が文献調査を開始した最終処分地については、日本原子力研究開発機構が北海道北部の幌延町で地下350メートルの試験坑道を建設し、研究が進んでいます。幌延町は隣接する豊富町とともに有数の酪農地域として知られており、地下とはいえ、核燃料関連の施設が建設されることで地域は大きく揺れました。あり得ないと分かっていても、万が一にも生産する酪農製品に風評被害が発生したら、地域経済が崩壊する不安は拭えません。

 玄海町と同様、原発計画が進む山口県上関町は最終処分地ではなく中間貯蔵施設の可能性調査を受け入れる方向です。原発計画は瀬戸内海で隣接する島々を巻き込む強い抗議運動にあって建設の道筋は見えていません。中間貯蔵施設についても、瀬戸内海の漁業への影響を心配する声は消えません。

 止まらない人口減に直面する地方の市町村は、住民が賛否で分断される経験をしながら、原発関連の施設を受け入れるかどうかを議論しています。日本のエネルギー源として原発を否定するわけにはいきません。だからといって、その電力を消費する大都市圏は、核に対する不安を地方に押し付ける構図は許されるわけがありません。対岸の火事、他人事のように眺めていては困ります。

 玄海町が最終処分地の調査を受け入れるかどうはは町民の皆さんが決めることです。しかし、その決断に至る過程、そして調査のその後、さらに最終処分地の選定、原発立地などを真剣に考える。それは日本全体で直視することです。静観は許されません。

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