処分地を選定する調査は進行状況によって3段階に分けられ、文献調査は最初のステップに過ぎません。玄海町は4月に調査受け入れを求める請願が町議会で採択されています。過去の事例を念頭に置けば国・経産省は水面下で玄海町と調整しており、5月1日の申し入れ、経産相との面会など一連の手続きは儀式に過ぎず、調査を受け入れる可能性は高いと見て良いでしょう。
最終処分場の選定で名前が上がるのは玄海町が初めてではありません。すでに北海道の神恵内村と寿都町の2町村が文献調査に応募し、2020年11月から調査を開始しています。長崎県対馬市、高知県東洋町も検討していましたが、見送られる見通しです。
日本は東日本大地震が発生する前までは原発が供給する電力に大きく依存しており、発電量の25%を占めていました。しかし、原発が排出する高レベル放射性廃棄物、いわゆる核のゴミを最終的に保管する処分地は決まっていません。原発が「トイレなきマンション」と言われる理由です。
玄海町は九州電力の玄海原発が立地しており、最終処分場として調査が始まれば、原発が立地する自治体としては初めてです。日本の原発が稼働し始めた1970年代から50年以上も過ぎて、ようやく「原発のトイレ」が隣接地に確保できるかもしれません。
高齢化と過疎化が進行
調査の受け入れに動く自治体に共通しているのは高齢化と過疎化の進行です。地域の将来、自治体の行政サービスを考えれば、新たな財源が必要です。処分地選定に適しているかどうかを資料調査する第1段階の文献調査を進めれば、最大20億円の交付金が支払われます。調査結果によって受け入れを拒否しても支払われます。第2段階であるボーリング調査などを含む概要調査に移れば交付金は最大70億円に。支払う財源は電源立地地域対策交付金で、電源開発促進税として電力会社に課せられており、この税は電気料金に上乗せされています。
脇山町長は経産相との面会後、「最終処分場の問題は、全国的に議論や関心が高まることが大事だと感じていて、その点では玄海町で最終処分場の話が出たことが全国の議論に一石を投じたように感じている。自分としても、この問題については全国の関心が高まる活動をしていきたいと思っている」と話しました。
まさにその通り。最終処分場を受け入れるかどうかは過疎に悩む自治体だけの問題ではありません。原発で発生した電力は送電網を介して大都市に供給されます。首都圏が営業地域の東電が福島県、新潟県で世界でも最大級の原発基地を建設しただけで足りず、東北電力と共に下北半島に東通原発を建設している事実でわかると思います。
原発関連施設を地方に押し付ける構図
「トイレなきマンション」と冷ややかに眺めている立場にはありません。東京や大阪など大都市の繁栄、日本全体の活動は電源立地を受け入れている地方の市町村に支えられているのです。
神恵内村、寿都町が文献調査を開始した最終処分地については、日本原子力研究開発機構が北海道北部の幌延町で地下350メートルの試験坑道を建設し、研究が進んでいます。幌延町は隣接する豊富町とともに有数の酪農地域として知られており、地下とはいえ、核燃料関連の施設が建設されることで地域は大きく揺れました。あり得ないと分かっていても、万が一にも生産する酪農製品に風評被害が発生したら、地域経済が崩壊する不安は拭えません。