日銀の議事要旨は誰に語りかけているのか 「何人かの委員」は説明に工夫を求めているけれど
日銀は2022年3月17、18日に開催した金融政策決定会合の議事要旨を公表しました。この会合は日銀の最高意思決定機関である政策委員会のメンバーが金融政策について審議、決定する需要な役割を担っています。出席する委員は日銀の総裁、副総裁、審議委委員ら合計9人で、財務省など政府の担当者も同席し、意見を述べることができます。
「何人かの委員」が対外的説明を求める
3月の会合の内容はメディアで報道されているので、ここでは触れません。議事要旨で取り上げたいのは、複数の委員から日銀が何を考えているかを説明するように求めている点です。
このサイトでは何度も黒田東彦総裁はじめ日銀に対してこれから日本経済がどういう難題に直面し、日常生活にどのような影響が表れるのかを説明したらどうでしょうかと提案しています。
日銀のスタンスはいつも通り。金融政策決定会合の後、黒田総裁は記者会見を開き、記者から1時間以上も質問を受け、答えますが、内容はこちらもいつもと同じ。2013年3月の就任以来、掲げている金融緩和策の継続を繰り返すだけです。しばらく後に議事要旨が公表され、会合で委員がどのようなことを議論し、結論に至るかの内容がわかります。ただ、残念なことに議事要旨をていねいに読む人は何人いるのでしょうか。財務省など政府関係者、銀行、証券など金融関係者、新聞・テレビの日銀担当はかならず目を通すはずですが、国民の多くは日銀のホームページにアクセスして読む習慣を持ち合わせていません。
3月の金融決定会合は2月24日のロシアによるウクライナ侵攻の後に開催されています。さらに過去2年間、世界経済を混乱させたコロナ禍が収束するかどうか微妙な時期でした。コロナ禍の後の経済がどう回復しているかも注目されていました。
ウクライナ侵攻とコロナ禍は毎年あることはではありません。日本経済の舵取りを担う日銀がいつものように記者会見を開き、その後に議事要旨を公表するルーテーィンを繰り返している時期ではないと誰もがわかっています。
「物価の基調判断にかかる対外的な情報発信」が議論
5月9日に公表された3月の金融政策決定会合の議事要旨によると、「物価の基調判断にかかる対外的な情報発信」が議論されました。日銀の表現に従えば「何人かの委員」から展望レポー トにおける示し方を含め、物価の基調に関する評価や見通しの説明を 工夫していく必要があるとの指摘があったとあります。また「物 価の基調判断において、生鮮食品やエネルギーなど、価格の振れやす い品目を除くことは重要だが、国民生活との関連の深い生鮮食品やエ ネルギーを除いた計数だけで物価情勢や金融政策スタンスの説明を 行うと、広く国民の理解を得ることは難しくなる惧れがある」と続いて書かれています。ちなみに惧れはおそれと読みます。初めてお目にかかった漢字です。
これまた議事要旨の表現を借りると、「この委員」は「企業収益や賃金の上昇を伴 いながら、物価が基調として上昇する好循環が実現しているかどうか、 といった観点から説明を行うことが重要である」とあります。
いやあ、うれしいです。賛同してくれる委員が「何人か」いました。「この委員」は、企業収益や賃金が上昇しながら、物価も上昇する好循環が実現しているかどうかを説明しなければいけないと続けたそうです。
日銀の黒田総裁が記者会見で「賃金が上昇していない」と強調していたのは、「この委員」の指摘を意識していたのでしょう。ただ、賃金が上昇するかどうかは日銀の政策の範囲内とみるかどうかですが、賃金が今後3%台の勢いで上昇する経済状況ではありません。
日銀は独立性は保証されても、孤高であってはいけない
2022年春以降にどのような経済状況になるのか。さらに夏以降は円安も含めてどう日本経済の舵取りを取らなければいけないのかをもっと詳細に、かつわかりやすく説明しても日銀に与えられたミッションを逸脱するとは思えません。
世界経済での日本の重要な役割を考えたら、日銀が最善の判断を保証する独立性は絶対に守られなければいけません。しかし、それは孤高を意味することでもないのです。
政府の言いなりになると勘違いしている政治家もいるようですが、日本経済の信用を揺るがす発言や介入は許されません。だからこそ、非常時に直面する世界経済について、さらに日本経済の影響について日銀自ら語り始めて欲しいのです。