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グリーン成長戦略③ 水素が日本を再浮上させる インフラ、実用化の壁を乗り越える創造力がカギ

 日本が世界で最も先行している水素の大型プロジェクトが福島県浪江町で進んでいます。浪江町は東日本大震災で津波の被害に加え、福島第一原発事故で全町民が避難を強いられました。町民の復帰は始まりましたが、地域で待つ仕事は限られています。国は廃炉工事が始まっている福島第一原発に代わる国家プロジェクトして水素が選び、大規模な投資や企業誘致を急いでいます。原発は建設が始まった頃も資源小国である日本の次世代エネルギーの役割を担っていました。水素は浪江町、日本を再浮上させる可能性を十分に秘めていますが、高くて厚いハードルが待ち構えています。

浪江町で原発に代わる水素プロジェクトが進む

 福島県浪江町で進む水素プロジェクトは世界最大級の水素製造装置を備える「福島水素エネルギー研究フィールド」。建設地は棚塩産業団地と呼ばれ、東北電力が原発建設予定地として計画していた跡地です。プロジェクトの構想すべてが原発のシナリオをなぞっているようで、町民の間でも大きな話題になっていませんが、浪江町の未来を支える材料になって欲しいです。

 ◆冒頭の写真は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のHPから引用

 敷地の周囲には太陽光発電のパネルが配置され、水素の製造装置は太陽光で得た電気を利用して水を電気分解して、水素を生成します。生産量は150世帯が1ヶ月消費できる規模といいます。水素は燃料電池に使われ、製造装置内で行った電気分解と逆の方向である水素と酸素を燃焼させてエネルギーを生み出し、自動車など様々動力源に利用されます。水素と酸素が反応するだけですから、残るのは水。CO2は発生しない理想的な脱炭素エネルギーです。

技術開発と実用化は世界でも先端を走る

 グリーン成長戦略では水素が最も活力を感じます。日本が先行しているからでしょう。戦略を具体化する実行計画をみても、2050年までに成長する産業としてエネルギー、輸送・製造、家庭・オフィスの3分類で見通していますが、日本が研究開発から事業化までで先駆的な役割を果たしているのは水素と燃料アンモニア事業です。戦略では実用化に向けて多くのプロジェクトが明記され、政府として支援する覚悟を示しています。

 当然ですが、実用化には難問が控えています。水素は他の燃料に比べて高圧で運搬しなければいけないなど輸送や取り扱いに新しい技術開発やインフラが不可欠です。燃料としては理想的ですが、製造コストが非常に高い。現在よりも5分の1程度下げる必要があるそうです。

燃料電池車は高価で水素スタンドが少ない

 燃料電池を利用した自動車を例にみてみます。トヨタ自動車が世界に先駆けて開発し、実用化に成功。日本でも政府や自治体、多くの企業が購入し、実際に走っています。しかし、電気自動車ほど目にしません。車両価格が高いうえ、ガソリンスタンドに相当する水素ステーションがほとんどありません。電気自動車も同じ課題に直面していますが、購入してもエネルギーを補給する手間がたいへんで自動車としての使い勝手が悪い。とりわけ水素は、高圧タンクで安全性が保障されているとはいえ、ガソリンが比較にならないほど爆発しやすい特性が知られているため、万が一交通事故にあった場合、どういう事態になるのか不安が残ります。

 製造コスト、運搬や保管、使い勝手ーー水素が身の回りのエネルギーとして利用されるため、日本企業の多くが研究開発しています。四方を海に囲まれ、水資源も豊富な日本です。世界から出遅れている脱炭素で挽回し、先行するための切り札でもあります。水素を世界に先駆けて実用化に成功する過程で生まれる新技術や経験は新産業を創出するエネルギーも創出します。期待したいです。

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