円安が教える日本の経済安保 半導体よりも「安定した成長」が最大の武器 

 円安傾向が加速しています。為替市場では2023年半ばには円安から円高へ転じるとの見方もありましたが、為替相場の流れは円高へ振れる勢いが感じられず、このまま円安が続きそうです。為替相場は多くの金融関連の指標の中でも予想できないことで知られ、優秀なトレーダーは中長期の為替相場については明言しません。「これから円安になるのか」「円高になるのか」を論じる考えは全くありません。ただ、現在の円安が日本経済が直面する多くの課題について語っています。

日本経済が強ければ、相場の暴走も吸収

 そのひとつが日本にとっての安全保障戦略とは何か。「安定した経済成長こそが安保戦略の要」であると教えてくれます。為替相場が大きく振れたとしても、日本経済の成長力と信用力が盤石であれば、荒れた為替相場のエネルギーを吸収して一定の相場に収斂していきます。たとえ為替のトレーダーやアナリストらが半年後の相場観が披露しても、それはビジネストーク。彼らは相場が上昇しようが下落しようが、方向は構いません。上下左右に動いてもらえれば、商売になるのですから。

 最近の円安は、個人的は予想通りです。ちなみに私は為替も含めてマネービジネスに関与していません。1985年9月、欧州出張から帰国する途上、空の上でプラザ合意を聞きました。当時、自動車産業を担当する記者だったこともあって、日本経済を直撃した円高ショックを目撃。以来、企業取材を通して為替相場の影響を体感してきました。ここ数年の体感温度を参考に眺めると、現在まで続く円安の長期化はごく自然の流れです。

「木を見て森を見ず」の相場観

 国の通貨は経済力の指標です。購買力平価など通貨の力を評価する手法はいくつもありますが、国際競争力の強い企業は円安だろうが円高だろうが、結局は利益を捻り出します。最終的に落ち着いたとされる為替相場は、生き残りへ向けて努力し、なんとか事業継続に成功した企業が生み出した結果に過ぎません。

 この視点に立って昨年のドル円相場を見れば、わかるのは日本経済の弱さです。有力な金融系シンクタンクは、相次ぐ金利引き上げが続く米国の景気が不況に陥り、FRB(米国連邦準備制度理事会)の政策が転換するのを引き金に日米の金利格差は縮小、円安から円高へ転じると予想していました。

 「木を見て森を見ず」。そんな思いでシンクタンクのリポートを読んでいたのを記憶します。まるで短期トレーダーと一緒だなあ。思ったよりも米国景気の腰が強く、FRBの金利政策に新たな動きが出ないこともあり、なかなか円高へ転じません。日銀が異次元の金融緩和策の修正に入っても、円高の空気は強まりません。欧米との金利格差にばかり目を奪われていたら、ドル円相場の本流を見逃してしまいます。

 残念ながら、円安は日本経済の沈下の結果なのです。「有事に強い円」などと呼ばれ、円は世界の通貨の中でも代表的な安全資産と言われ続けましたが、ロシアのウクライナ侵攻の時を思い出してください。円は売られています。石油や天然ガスのほとんどを海外に頼る日本は、中東やロシアなどの資源国との関係が揺らいだら、その経済の先行きに不安を抱くのは当然です。経済が強いのなら、資源高を吸収できるでしょう。しかし、今はその反発力すら感じません。

経常収支に注目を

 その不安を表しているのが経常収支。財務省が5月に発表した2022年度の経常収支は9兆2256億円となり、前年実績に比べて54%も減少しました。貿易収支が資源高と円安で過去最大の18兆602億円の赤字を記録した影響をもろに受けています。資源高はロシアのウクライナ侵攻が収束すれば元に戻るかという議論よりも、資源や農作物の輸入高騰に日本経済が耐えられるのか、その材料費急騰圧力を吸収する余力があるのかを真剣に考える時です。

 現在、目の前で加速する円安は、日本経済は耐えられないかもしれないと語っています。日本経済の強さである自動車や電機などの製造業の国際競争力は停滞しており、歯止めのかからない人口減により国内市場の活力は奪われています。女性活用が先進国で最も遅れるなど新しい起業家や産業創造力は今のところ、期待できません。日本の屋台骨はもう消耗しているにもかかわらず、再構築する術を見失っているかのようです。

政府の政策に期待できない

 日本の政府の政策はどうでしょうか。半導体などを経済安保の代表例に仕立てて巨額の助成金を投入していますが、半導体の産業特性からいって技術移転や起業育成などの波及効果は見込めません。政策の目玉として一点豪華主義の打ち上げ花火は、日本経済の底力を押し上げることはないのです。

 冷静に日本の経済政策、金融政策を俯瞰すれば、円を買い集める気が起こらないはずです。1980年代、「中国が世界の舞台に今すぐ戻るためには日本を手に入れることだ」という最悪最低なジョークが飛び交ったことがありますが、今、世界から取り残される日本を誰が大事にしてくれるのでしょうか。日本経済こそが日本の安全保障の要であることがわかっていただけると思います。

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