カーボンニュートラルはもう忘れ去られるのか「停電寸前」が照らし出した儚い本気度
2022年3月22日、関東と東北が停電寸前にまで追い込まれ、初めて「電力需給ひっ迫警報」が発令されました。16日の福島県沖を震源とする大地震で東京電力、東北電力の火力発電所が停止しているなか、22日に真冬並みの寒気団に襲われた東北、関東では暖房による電力需要が急増。頼みの綱だった太陽光発電は悪天候の影響で稼働率が大幅に低下。需給の度合いを示す電力使用率は需要が供給を上回る100%を超える異常状態に追い込まれたのでした。
机上の計算ではすでにブラックアウト。東日本大震災で原子力発電の再稼働は立ち往生したまま。火力発電に頼らざるを得ない日本のエネルギー政策の脆弱性が改めて炙り出されるとともに、2020年12月に発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が一年余りで紙屑となって忘れ去られるでしょうか。胸騒ぎを覚えます。
幸運にも関東、東北ともに停電は免れました。今回の原因と経緯の詳細はすでに伝わっているでしょうから省きます。注目したいのは、停電寸前に追い込まれた日本の電源ポートフォリオです。日本のエネルギー政策の現状がひと目でわかるうえ、それは地球温暖化防止に対するカーボンニュートラル戦略への実効性も見えてきます。
揚水発電に救われる現実を思い知る
今回の寒波襲来による停電を救ったのは、揚水発電でした。揚水発電は川を堰き止めるダムとは違って、大量の水をポンプで高所の貯水池に揚げてため込み、水を再び下方に一気に放流して、そのエネルギーで発電機を回します。発電余力がある夜間などで揚水して昼間の電力需要に合わせて発電を調整できるので、東京電力などは使い勝手の良い電源として活用していました。家庭でいえば深夜に割引する夜間電力と同じです。
水力は本来、縮小すべき運命にありました。大規模ダムを建設するためには周囲の自然を破壊し、地権者との調整などで長い年月がかかります。建設期間や権利調整、需要に応じた発電の機敏さを考慮すると、火力発電の方が投資コストも含めて現実的です。ダムに貯める水利の問題も日本全体の人口減の始まりを受け、水資源の確保という必要性は低下しています。
またCO2の排ガスを抑える観点に立てば水力発電は再びその有効性を見直して良いのですが、日本のエネルギー政策は石炭からLNG(液化天然ガス)へ軸足を移しながら、需要の変化に合わせて発電する役割は火力発電に任せ、一方で原子力発電を一定の電力を確保する安定した基礎電源としての位置づけです。太陽光や風力などの自然エネルギー、言い換えれば再生可能エネルギーはどうしても天候に左右されることもあって、補助的な役割とみなしてきました。
2022年度予算から日本のカーボニュートラルへの決意が見えない
しかし、カーボンニュートラルの大きな波は180度の転換を迫ります。石炭はもちろん、天然ガスによる火力発電の依存度も下げざるを得ません。CO2をあまり排出しない原子力発電の旗は世界各国もまだ下ろしていませんが、日本の場合は事実上再稼働も含めて依存度を高めるのは不可能です。そうなれば自然エネルギーです。とはいえ、日本の場合、狭い国や自然環境の制約があって、欧米のように比率を高めることはできません。