中国、EVで国産品優先 国家資本主義の罠にハマり技術の停滞も、最先端技術は自由から生まれる
中国政府が中国の電気自動車(EV)メーカーに対し半導体などの電子部品で国産品を優先して使うように指示したそうです。中国政府はこれまでも自動車、電機の技術を海外から導入するため、中国企業との合弁などを求め、国内の技術力向上に努めてきました。予想を上回るスピードで成果を達成する経済政策は「国家資本主義」の成功事例といわれ、欧米や日本などの自由主義経済を圧倒するのではないかとの指摘もありました。国産品の優先政策は自国技術への自信を映し出していますが、実は恐ろしい罠が待ち構えています。国家資本主義政策は早期の技術移転に効果を上げても、技術創造に直結しません。創造の源は国家資本主義とは真逆の自由な発想にあります。中国はきっと予想もしない技術の停滞に直面します。
中国はEVで世界一
読売新聞によると、中国の工業情報化省や財政省などは自動車の供給網を安定確保するため、電子部品の国産品使用率の検査や車載用電池の認証制度の導入を実施していくと伝えています。国産部品の使用率に関する数値目標も求め、EVに使う半導体など対象品目で数値目標を達成できない場合には罰則が科される可能性があるそうです。
中国のEV市場は世界最大で、2022年の販売台数は前年比93・4%増の688万7000台。ほぼ倍増です。中国だけで世界のEV販売の50%を超えているそうです。猛烈なスピードで急増する背景には政府の支援策があります。排ガスやCO2の大量排出で世界最悪の大気汚染を解消するため、2010年から排ガスを出さないEVを購入する際には補助金を支給する制度を設定し、後押ししてきました。ちなみに補助金制度は2022年に終了しており、2023年は急減速するかどうか注目を浴びています。
政府の強力な支援策と市場の急拡大を追い風に、中国のEVメーカーのBYDは世界の70を超える国・地域で186万台を販売、テスラを抜いて世界一の座に躍り出ています。日本にも進出し、その動向が注目されています。
中国のEV市場、メーカーそれぞれが世界でトップクラスの勢いを占めているのですから、中国政府が半導体も含めて電子機器などで国産品使用を強く推奨するのは理解できます。EVは3万〜5万の部品を組み立てて完成するガソリン車と違い、モーターやシャシーなど主要部品は限られ、欧米や日本の技術を吸収すれば自国で調達できる体制は構築できるでしょう。BYDが好例で、かつては人間が乗る空間よりもバッテリーが場所を占めているといわれましたが、現在はその品質の高さは評価されています。国産品で自前のEVの量産を加速すれば、経済だけでなく自前の産業育成に大きく寄与します。
EVの技術開発は始まったばかり
しかし、EVの技術開発はまだ始まったばかり。充電能力にまだ難が多いバッテリーはじめ駆動系、自動運転など発展途上の領域がほとんど。人工知能を駆使してネットやEVに備えたカメラなどで得た大量の情報を判断し、安全運転に反映させる技術などは今後の半導体の進化がカギを握っています。新たに最先端技術を創り出さなければ、EVなど新市場で勝ち残ることはできないのです。
未完成の技術を結集した商品や市場は、素っ頓狂なアイデアと偶然による発見が重なり、ブレイクスルーするものです。残念ながら、国家レベルで技術開発する方向性や投資計画を設定しても、成果は生まれません。半導体など数多い過去の「日の丸プロジェクト」を思い出してください。成功している例は数えるほどです。中国政府の思惑通りに推移するかどうかは疑問です。
もちろん、中国の企業、研究開発拠点は世界トップレベルに到達しているところもあります。最近の特許取得数や世界で引用される論文などの指標で高いランキングにまで上昇しています。
しかし、現在の技術が世界最先端だから、新たな世界最先端を生み出すことが約束されているわけではありません。韓国のサムスン電子を見てください。1980年代、世界トップを走る日本の半導体メーカーの背中を追いかけながら技術導入に努め、1990年代には東芝などを追い抜きます。今も世界トップの座を守りますが、サムスンが自ら新たに市場創造した領域はどのくらいあるのでしょうか。
技術を洗練させ進化させることと、新たに市場創造する研究開発は別の次元です。中国は国を挙げて半導体など電子分野で欧米・日本に肩を並べ、追い抜く政策に注力していますが、肩を並べる水準に到達するのは可能でも、たちはだかる技術の壁をぶち破り独創できるかどうか。
国家資本主義と新しい冷戦は杞憂?
中国は「国家資本主義」の成功例ともてはやされた時があります。民主主義国家は、議論や手続きに縛られ決断に時間がかかるが、中国やロシアは政府の決断で一気呵成に物事が進む。世界の政治経済を分析するユーラシアグループ社長の国際政治学者イアン・ブレマーは2010年5月に「自由市場の終焉:国家資本主義とどう闘うか」を発刊し、中国、ロシアなどが推し進める国家資本主義が自由市場を脅かし、「新しい冷戦」が幕開けしたのかもしれないと問いかけました。英経済誌「エコノミスト」も2012年1月21日号で、石油・ガスなどエネルギーはじめ情報通信など主要市場で中国など国家主導型の巨大企業が出現していると警鐘を鳴らしていました。
冷静に眺めたいと思います。中国の国家資本主義は今も成功の道を走っているのでしょうか。アリババなど情報通信の過度な管理強化、不動産の低迷、若者を中心にした高い失業率などは茨の道に迷い込んでいる予兆を示しています。そこに加えてEVなどでの国産品の推奨。技術開発の扉を自ら閉ざす政策としか思えません。
国家資本主義はイアン・ブレマーの杞憂に過ぎない存在として終わるのでしょうか。それとも中国は国の叡智、あるいは人智を超える究極の人工知能の力を借りて国家資本主義を引き続き推し進めるのか。答はChat GPTに尋ねた方が良いかもしれません。