• HOME
  • 記事
  • Net-ZERO economy
  • 電力権益の自壊が始まる カルテルを号砲に日本経済の地殻構造に穴 すべては福島原発事故から
福島第1原発事故

電力権益の自壊が始まる カルテルを号砲に日本経済の地殻構造に穴 すべては福島原発事故から

 あくまでも予感です。でも、きっと当たりです。

中国電力の社長が引責辞任

 日本経済を支えてきた電力業界の自壊が始まったのです。企業にも社会生活にも不可欠なインフラストラクチャーとして強固な岩盤にそびえる電力産業。その権益と政治力は、通産省(現経済産業省)でさえ口出しできず、地方経済の”殿様”として君臨してきました。しかし、2011年の東日本大震災による福島第一原発事故ですべてが変わり始めました。発送電が分離され、新電電の参入が始まります。一枚岩と思われた電力各社の結束にも乱れが目立ちます。戦後、築き重ねてきた日本経済の地殻構造にひび割れが生じ、穴が空き始めているようです。

 中国電力は2023年3月30日、滝本夏彦社長と清水希茂会長の2人が引責辞任すると発表しました。公正取引委員会から独占禁止法違反として命じられた課徴金を支払うため、2023年3月期に707億円の特別損失を計上するからです。滝本社長は昨年6月に就任したばかり。滝本社長は辞任の理由について、「会社への信頼が失墜し、巨額の課徴金が科せられる事態を極めて厳しく受け止めた」と話しています。

関西、中部、九州の電力各社の足並みは乱れ

 公取委が独禁法違反として認定したのは、事業用電気の販売カルテル。中国電力のほか、関西電力、中部電力、九州電力、中部電力ミライズの4社が結んだとしています。課徴金は過去最大の1010億円。カルテルを主導したのは関西電力ですが、カルテル違反を最初に申告したため、課徴金が減免される制度が適用され、課徴金の支払いも排除措置命令もなし。

 中国電力の社長が引責辞任するのに対し、中部電力は公取委の事実認定と法解釈について見解の相違を理由に処分取り消しを提訴する考えです。水谷仁副社長は「関西電力との間で営業活動を制限する合意はしていない」と話しています。残る九州電力は沈黙を貫いています。九州電力の池辺和弘社長は業界団体の電気事業連合会の会長を務めています。公取委の見解が正しいかどうかの議論はありますが、あってはならないカルテルを問われた電力業界として発言する責務はあると思いますが、4月初め時点では沈黙。

 電力4社の足並みの乱れには驚きます。電力業界は典型的な序列社会でした。トップは当然、東京電力。序列2位は関西電力、そして中部電力と続きます。福島第一原発事故までは電事連の会長職は、東京、関西、中部の3社が輪番制のように就任し、沖縄を含めた残る7社は上位3社の意向に従うのが掟(おきて)でした。

 しかし、福島第一原発事故で東京電力は会長職を見送り、関西電力は原発立地先の元助役からの不正金品受領などで不適格に。2020年3月から九州電力の池辺社長が会長職に就任したものの、本来は1期2年が原則であるにもかかわらず2期目も続投する異例な事態が続いています。

電力は序列社会

 外形上、過去の序列は消えて見えますが、意識も堕落したのでしょうか。関西電力主導のカルテルが良い例です。カルテルを持ちかけながら、摘発を恐れて自ら手を挙げて課徴金などから逃れる。序列2位の誇りをいつ見失ったのでしょうか。突然、取り残され、巨額な課徴金を突きつけられた中部、中国、九州の電力3社の胸の内は怒りの渦でしょう。

 最近の電力各社の不祥事を連ねたら、むなしくなります。新電電の販売情報の無断利用、原発の入室管理のいい加減さなど倫理観が問われるものが相次いでいます。

地域の殿様だった

 1980年代、電力はまさに殿様でした。1990年12月、東京電力の平岩外四会長が経団連会長に就任した時、北海道、東北など各地域の経済連合会の会長はすべて電力会社。日本の経済団体のトップがすべて電力会社が占める。異様な風景でした。なにしろ電力関連の設備投資は東京電力が1兆円を超え、電力全体で4兆円を上回っていました。地域の中堅・中小企業にまで波及するだけに、電力会社の力は地方政治も含めて大きな影響力を保持していました。通産省の幹部は「東京電力には物申せない」と苦笑していたほどです。

 しかし、福島第一原発事故はすべてを覆します。原発の新増設は棚上げされ、発電と送電の事業は分離。新規参入も認められます。電力業界が送電網に大きな負荷を与えることを理由に強く反対していた太陽光や風力など再生可能エネルギーは、雨後の筍のように全国各地に設置されます。

カルテルなど不祥事は焦りから

 経営収益で原発に依存していた関西電力が焦るのもわかります。カルテルはじめ不祥事が相次ぐ舞台裏が目に浮かびそうです。

 もう元に戻ることはないでしょう。政府はカーボンニュートラルの柱として原発の新増設へ政策転換しましたが、目標到達の道筋は見えていません。原発の不足分を補うため、太陽光、風力や水素などカーボンゼロのエネルギーへ移行せざるをえないとなれば、巨大発電所の依存する電力会社の役割は変わります。一方で豊田通商など電力以外の企業投資が発電事業で比重が大きくなっていくはずです。

もう元には戻らない

 ゆっくりですが、着実に電力会社の地盤沈下は進んでいくのは間違いないでしょう。カルテルなどの不祥事はその一端に過ぎないのです。日本経済の地殻構造が変わるきっかけになるはずです。どう変わるのか、もう少し眺めていたいです。

関連記事一覧

PAGE TOP