人口減・市町村消滅は怖くない(中)都市機能はコンパクトからアメーバへ
青森市と秋田市。もう40年も前から実家の墓参りを兼ねて訪れており、その帰りにいつも歩き回り、街の変遷を眺めてきました。偶然にも両都市とも地方都市の未来モデルとして注目を浴びた「コンパクトシティ」の失敗例としても知られ、とりわけ青森市は先進事例とされていただけに、新聞などメディアにたびたび取り上げられてきました。結果、成功から失敗への経緯も見てきました。
先進事例の青森市は失敗
コンパクトシティは、国土交通省の定義などで簡潔にまとめると、住居と勤務先、商業施設、行政サービスなどが都心に集中し、公共交通機関の利用で短時間で行き来きできる都市のことです。「日常生活に必要な機能が都心にコンパクトにまとめられている」。こんなイメージです。
なぜ都市機能をコンパクトにしなければいけないか。青森市も秋田市も県庁所在地。県で最も人口が多い街です。にもかかわらず、都市機能を集約せざるを得ないのは、人口減や財政力の低下などが引き金です。
それは地方都市の宿命です。地域の拠点病院となる市民病院などは広大な敷地が必要なため、都市郊外に立地しがち。市町村の役所、病院、商業施設がそれぞれ遠距離に分散していれば、路線バス網など公共交通機関、道路は拡散し、上下水道などインフラ整備・維持費は増します。冬季は積雪による除雪費も加わります。
地方都市は当然ながら、東京や大阪など大都市に比べ高齢化が加速しており、福祉費用も嵩みます。ただでさえ財政力が衰えているのですから、目の前に積み上がる都市機能の維持費は山の頂は遥かかなたに。住民に欠かせない機能を失わずになんと集約して諸々の費用を抑制、市町村の維持を目指すしかありません。
賑わいは戻ったが、浮揚力は乏しく
青森市は1999年、全国でもいち早くコンパクトシティ構想に挑みました。駅前開発や県庁や市役所が立地する市中心部にマンションや病院を集め、2001年には青森駅前に複合商業施設「アウガ」をオープンします。駅前にはねぶた祭りを体感できる「ねぶたの家ワ・ラッセ」が構え、港には観光物産館アスパム、かつての青函連絡船「八甲田丸」などが歩いて回れる範囲にあります。おいしい農水産物をサカナに楽しめる飲食街も増えました。
観光客にとってはとても使い勝手が良いものでした。東北の夏を代表するねぶた祭りをいつでも体感できるうえ、青函連絡船で賑わったかつての青森を味わえます。目玉の施設であるアウガは初年度600万人が訪れたそうです。それでも2億円を超える赤字を計上しました。人口減に歯止めがかからず、浮揚するきっかけが掴めません。郊外から移り住むよう都心にマンションを建設しても住宅費の負担が大きく、結局は郊外の大規模商業施設を利用する方が生活コストは低く収まります。思惑通りに住民の移動が始まりません。
青森市はアウガ存続に向け努めましたが、2017年に事実上撤退。現在は、図書館が入居し、地下は昔の駅前市場を復元した「新鮮市場」や居酒屋が収まっています。60年以上も前の昭和30年代の青森駅周辺を知る人間から見ると、当時の空気が再現された好きな空間です。
秋田は街区設計にかけ違い?
秋田市は2012年、秋田駅前からアーケード街などが続く地域に135億円かけて大型商業施設「エリアなかいち」を建設しました。建築家安藤忠雄さんが設計した県立美術館も建設され、住宅棟も隣接します。秋田駅前周辺は以前の道路整備の影響で、車でのアクセスが不便になってしまい、使い勝手が良いとは言えない地域でした。イトーヨーカ堂が撤退し、秋田を代表するデパート「木内」は不振が続き、コロナ禍以降は休業状態にあります。
現実を精査せずに構想を進めた印象でした。エリアなかいちの中核施設「サン・マルシェ」は完成から2年後の2014年に撤退。人流を増やすミッションを担う県立美術館との相乗効果も今ひとつ。コンパクトシティ構想の是非を問う以前に街区設計にボタンのかけ違いがあった気がします。
もちろん、コンパクトシティという考え方が間違っているわけではありません。ただ、改めて都市機能を活性化するためには多額の設備投資が必要ですし、自分たちの都市の未来像を従来の延長戦上で議論しても最適解は見出せないと思います。
北海道の路線バスに乗っていると、病院通いの会話をよく聞きます。「これから旭川へ行くんだわ」「月1度は、札幌の病院へ」。住んでいる自治体では治療や検査が間に合わず、大学病院や専門医がいる札幌市や旭川市に高速バスで向かいます。
高速バスで病院通い、買い物も
帯広市から札幌市のデパートへ買い物に向かう専用のバスも誕生しました。帯広市の地元百貨店「藤丸」が閉店したため、買い物が不便になったとの声を受けて、大丸札幌店が4月、バス2台を手配しました。参加費は2000円ですが、代わりに商品券200円とランチ券1000円を配布します。約80人が朝7時の帯広駅を出発して午前11時に大丸札幌店に到着。4時間近いバス旅行です。4時間ほど買い物を楽しんだ後、再び帯広へ4時間のバス旅行。
買い物客は長いバス旅行に耐える必要がありますが、広大な北海道では3時間程度の乗車時間は珍しくありません。札幌市からニセコスキー場までは軽く3時間を超えます。大丸から見ても、帯広市など東部のお客さんを取り込み、商圏拡大のきっかけになります。
住民にとって利便性を考えたら、病院も商業施設も地元にあるのが最善です。しかし、札幌、福岡など地域の中核となる都市以外の市町村が万全な体制を整えるのは不可能です。時間と費用など負担は大きいですが、都市機能を試行錯誤しながら維持するよりも、必要なものを必要な場所に向かって手にいれる人口減政策を拡充するのが正解ではないでしょうか。
自前主義を捨て、他の都市や施設と連携
都市が自前で生き続けようとせず、触手を延ばして住民に必要な病院や商業施設を飲み込むアメーバを目指すときと思います。100億円単位の投資は控え、ヘリコプター、バス、鉄道などの交通機能を拡充するとともに、受け入れる自治体や施設と綿密な連絡と機能の一体感を醸成するのです。
人口減と市町村の消滅は時間との闘いです。多くの自治体はすでに事実上、65歳以上が過半を占める限界集落を多く抱えており、それぞれの自治体が理想とする機能を手早く整備する必要があります。必要な都市機能を取り込む触手を融通無碍に延ばし、自治体の形を変える。アメーバシティはコストパフォーマンス、タイムパフォーマンスを一挙両得できる、今流行の言葉「タイパ」の発想です。=次回に続く。