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円安は国内回帰を招くか⑥ 中小が消える 財務省・日銀、為替介入が無限なら政策説明も無限に

 「無限にある」

 この言葉の響きが消えません。財務省の神田真人財務官が10月20日夜、ドル円相場が1ドル=150円まで一時下落したのを受け、思惑や投機が入り混じる市場に放った発言です。為替介入しているかを問われた後「介入をしているか、していないかにはコメントしない」と述べながらも、「必要な行動をとれる態勢は常にできている」とけん制し、円買い介入の原資について「無限にある」という言葉を選びました。投機筋に対する日本政府の決意の表れでしょうが、どうしても違和感が残ります。

この発言が耳に残り、違和感が消えません

 確かに巨額資金が手元にあります。原資となる外貨準備高は9月末時点で1兆2380億ドル(約180兆円)。凄い規模。ただ、米国債などの証券が大半を占め、介入としてすぐに使える資金は19兆円程度。全体の1割ほど。

 そんなに潤沢でもなさそうです。10月に円を買ってドルを売った資金は6兆3500億円。9月にも2兆8300億円を使って相場に介入しているので、9月と10月の2ヶ月間で9兆円を超える資金を投入しています。手元にすぐ使える資金が19兆円ですから、半分近く使ってしまいました。財務手の財布をのぞくと、どうも無限にあるわけではない。

 ドル円相場は一時130円台の円高へ揺り戻したものの、再び140円台へじわりと円安が進んでいます。急速な円安の主因は日米の金利差拡大です。そこに日本経済の弱さが材料として加わり、円安の歯止めがかかる相場感が定まらないのが現状です。介入したから、投機の思惑を火消しできるかどうか。

原資の外貨準備は国民が稼いだ金です

 ドル円相場が140円、150円、その先も突破した場合、9兆円超を投入したことをどう説明するのでしょうか。「無限にある」と説明する外貨準備高は日本国民が稼いだお金の蓄積です。もともと財務省に「無限にある」なんて言われる筋合いはないのです。まるで他人のお金で遊び回る放蕩息子のようです。

 まだ納得できないことがあります。「介入しているか、してないかはコメントしない」との発言です。政府・日銀が為替相場で投機筋と駆け引きする材料を与えない趣旨であることはよくわかるのですが、定期的に公表する公的な統計資料や民間の予測などでそう遠からず判明します。

 為替相場は誰も予測できる代物ではありません。ジョージ・ソロス氏らが英国の中央銀行でポンド相場で闘い巨額な利益を挙げた例がありますが、極めて稀な例。今回のドル高円安の背景と全く事情が違い、役者も舞台も異なります

経済・金融政策の説明を「無限」に

 むしろ財務省・日銀が発言して欲しいのは、これからの経済・金融政策の方向です。昨年から始まった原材料の高騰は急速な円安が加わり、拍車がかかっています。10月の消費者物価は3・6%上昇と40年ぶりの高騰です。日銀が2%上昇を目標に続けてきた大規模緩和が奏功したわけではありません。日銀は繰り返し「健全な物価上昇かどうか」と発言しますが、それよりも今後の行方を日銀は説明する責務があります。

 極めて単純化して申し訳ないのですが、9兆円を超える資金を使っても円安が止まらず、物価が上昇していたら、「あの9兆円はなんだったのか」と誰もが疑問を持ちます。 

 日本経済への打撃はいかほどか。素朴ですが、深刻な疑問が続きます。

円安は中小企業は窮地に

 中小企業の経営環境をみてください。帝国データバンクによると、1ー10月に円安が引き金となって倒産した件数は21件。過去5年間で最多になるそうです。1ドルが140円台に進んだ夏から増え始め、輸入原料の高騰などで食品、繊維の業種で倒産が目立っています。しかも全体の60%以上は負債額5億円未満の中小企業が占めました。価格交渉で原材料の高騰分を転嫁できない中小企業は円安が続けば、結局は赤字を積み増すだけ。帝国データは今後も円安による倒産は増えると予測しています。

 もちろん、円安で輸出競争力が戻り、しかも海外で稼いだ利益が膨らみ、収益増を喜ぶ会社もあります。しかし、それは商社、海運、電機などの大手企業が大半です。円安の恩恵は大企業に偏り、中小企業は窮地に追い込まれているのが実情です。

 企業経営と為替相場は切っても切れないものです。資源や農産物の大半を輸入に頼る日本の場合、企業経営者なら為替リスクはみんな覚悟しています。相場の振れを想定しながら、経営するのが本道です。これは大企業も中小企業も変わりません。

経済状況のストライクゾーンを提示して

 財務省・日銀に為替相場の操作を求めているわけではありません。日本の中小企業の現状を踏まえ、どのような金融政策を実施するのか。もっと説明して欲しいです。中小企業が経営の苦境を乗り切るためには、これから直面する経済状況のストライクゾーンを見極める必要があるからです。

 「お金は無限にある」と気合を入れるよりも、「中小企業を支援する政策とアイデアは無限にある」と胸を張って言い放って欲しいです。

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