日本の電力インフラはデータセンター、人工知能、EVに耐えられるか

  日本は新しい産業を創出できるインフラストラクチャーを整備できるのだろうか。EV(電気自動車)、人工知能(AI)、データセンター・・・。日本経済を支える自動車、コンピューター、半導体、情報技術の産業は、新たなイノベーションを飲み込んで飛翔しようとしています。革新するエネルギーの源はいずれも電力。ところが、それぞれが消費する電力量が半端なく、日本の電力供給力が追いつきそうもないのです。30年間にわたる閉塞期からなんとか出口を見つけて、脱しようとしている日本経済でしたが、出口を示す扉の前に「電力供給」という大きな壁が待ち構えていました。

日本経済は迷路から脱出寸前

 日本経済は、閉塞感に満ちた迷路からようやく抜け出せるかもしれません。経済成長、給与の伸び率は実質ゼロが続き、日本銀行による大規模な金融緩和で金利もゼロのままでした。1990年代以降、自動車や電機などに代わる新しい産業が創出せず、代替わりどころか沈滞した空気をそのまま抱え、ため息を吐く企業が大半でした。

 しかし、潮目は変わろうとしています。日銀は金利引き上げに動き、ゼロ金利から「金利のある世界」への道筋を示し、本来の金融が再び目の前に現れようとしています。日銀が自ら長期資金市場を歪めていた国債の大量購入も縮小する方針を明らかにしました。世界の金融業界から取り残されていた日本がようやく世界に復帰できる潮流が生まれています。

 1990年代の勝利の方程式にあぐらをかき、イノベーションを忘れていた日本の産業にも活力が蘇ってきました。自動車、テレビなど家電製品、半導体と経済の力強い息吹きを感じさせた産業は世界一の冠を掲げていましたが、今や自動車がハイブリッド車の栄光に縋ってなんとか輝きを保っているだけです。

データセンターに原発30基分

 日本政府は米国との経済安全保障を前面に出して半導体の復活に乗り出す一方、人工知能、データセンターなど次代の情報技術の基盤となる産業の誘致、育成に力を入れ始めています。政策としての稚拙さは否定できませんが、世界最大の半導体メーカーである台湾TSMCを熊本県に誘致したほか、北海道の千歳市にIBMと連携する日の丸半導体プロジェクト「ラピダス」を設立しました。

 EVは出遅れていますが、トヨタ自動車やホンダ、日産自動車が巻き返しに懸命です。欧米や中国に追いつくにはあと10年ぐらいかかりますが、必ずキャッチアップします。日本の産業力を信じています。

 日本経済の復活のシナリオは具体的に描かれてきました。ただ、そのシナリオがハッピーエンドで終えるために必須の電力供給に目処が立っていません。人工知能への投資で息を吹き返す戦略を持つソフトバンクの予想によると、例えばデータセンターに必要な電力量は2040年には2020年の20倍を超える水準に達するそうです。原子力発電所に置き換えれば、30基分に相当すると試算しています。

 データセンターはマイクロソフト、グーグル、アマゾンなど世界の情報技術をリードする企業の戦略投資の一つで、千葉県など全国各地に建設されています。スマートフォン、パソコンなど情報機器、クラウドなど情報ビジネスの基盤を支えるだけに、電力消費量は莫大です。人間は頭を使い過ぎると「知恵熱」を発生しますが、データセンターの場合も情報機器の「知恵熱」です。現在、最も話題を集めている人工知能も多くの情報処理を一瞬にこなすため、従来の半導体を超える電力を消費します。

EVは原発10基分

 EVも電力を食います。石油に代わって電気でモーターを駆動して走りますが、ガソリンスタンドに代わる充電設備拠点が稼働するには大量の電力供給が必要です。100万単位の車が一度に充電しても停電にならないように大量の供給余力を確保しなければいけないからです。

 日本自動車工業会が2020年12月に明らかにした試算によると、1年間に販売する乗用車400万台、さらに保有台数6200万台すべてがEVに切り替わったとすれば、電力の発電能力を10〜15%も増強しなければいけないそうです。能力増を換算すれば原発10基分、火力発電所なら20基分に相当するそうです。

 ざっくりした単純計算ですが、データセンターとEVを足し算しただけでも原発40〜50基分を増設しなければいけません。2011年3月の東京電力福島第一原発事故以降、原発再稼働さえ手こずり、新増設の議論などとてもできないのが現状です。原発の建設は10年単位の歳月を使って進める長期プロジェクトです。政府は原発の新増設へ舵を切っていますが、これから10基を建設するとしてもデータセンターやE Vが求める電力を供給できるとは思えません。

 さあ、どうすれば良いのか。日本経済の新しい未来図を絵に描いた餅で終わらせるのか。原発に代わるアイデアを捻り出すのか。日本だけの問題とは思いませんが、かなりの難問です。でも、解はかならず見つかります。

関連記事一覧