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福島・浪江町、26年度に水素を本格稼働「道の駅」よりも地域経済を浮揚させる力はあるのか

 福島県浪江町を訪れるたびに、違和感を覚えることがあります。政府が推進する「水素プロジェクト」ってどう地域経済に根付き、浮揚する原動力につながるのか。いつも疑問を感じます。東京電力の福島第一原子力発電所を代替するだけなのか。それとも今度こそ地域経済の新たな力を生み出すことができるのか。

「水素」に違和感

 浪江町役場のそばに開設した「道の駅なみえ」は、地域との繋がりがすぐにわかります。2020年8月のオープン以来、毎年訪れていますが年々、人の賑わいは増え、周辺地域の特産品で店内は埋まっています。福島県内の地産地消を柱にお客さんを集めようといろいろな試みを続けています。生産施設を奪われて窮地に追い込まれた「磐城壽」などを醸造する浪江町の蔵元・鈴木酒造店、大堀相馬焼もどんどん品揃えが増え、店内に入るとどれを買おうか迷うほど。地域がスクッと立ち上がり、前進しているのが肌でわかるのです。

 しかし、「水素」はなかなか頭にスッと入ってきません。町役場や「東日本大震災・原子力災害伝承館」などで国の水素プロジェクト構想は図解などでていねいに説明されていますし、海岸線に向かえば関連工場や施設、太陽光発電などが並ぶ風景が目に入ります。国家プロジェクトですから、巨額の資金が浪江町周辺に投下されるはずです。でも、その資金が地域経済をどう潤すのでしょうか。

 1970年代の原子力発電所建設計画を思い出してみてください。東京電力のみならず、国の電源三法による交付金などで福島県の浜通り地域にはたいへんな資金が投入されました。原発関連のマネーは地域経済を支えたのは事実ですが、原発以外の新たな産業振興、経済力をどこまで生み出したのか。

原発マネーは地域経済を浮揚させたか

 原発関連のマネーと地域経済を離れてみると、まるで生ビールのジョッキを眺めているようでした。大きなガラスのジョッキに一緒に入っているにもかかわらず、ビールの泡とビール液体はある一線で分離され、一体感が薄いのです。ビールは泡だけ、あるいはビールの液体だけを飲んでも美味しくありません。地域経済をビールに例えるのは失礼と思いますが、双方の良さを引き出すためには一体化が不可欠です。

 政府は浪江町で進めている世界最大級の水素製造拠点「福島水素エネルギー研究フィールド」の商用化を2026年度から開始するそうです。国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)などがすでに水素の製造・供給技術の実証実験に着手しており、製造費用の低コスト化に向けた技術開発などを進めるそうです。

構想はきっちりあるが・・・

 構想はきっちりと出来上がっています。水素で走る燃料電池車・バス、トラックなどを活用してCO2を排出する化石燃料を一切使わない物流体系を構築。ガソリンなどに代わる水素を充填する「ステーションも福島県内に数多く新設します。太陽光発電でもフィルムのように薄く曲げることができる「ペロブスカイト」型を実用化し、普及させる考えです。福島県に脱炭素社会のモデル事業をあちこちに設け、関連産業やスタートアップ企業の誕生を期待しています。

 しかし、構想の段階です。水素の実用化は、1990年代からエネルギー会社や自動車メーカーなどが取り組んでいますが、水素を安全に利用する技術の確立は難しく、そのコスト高が足かせとなって遅々として進んでいません。本格的に商用化するのはこれからですから、冷や水をかける気はありませんが、多くの時間と多額の資金を投入しても構想通り進まない状況は、核融合プロジェクトなど次世代のエネルギー開発と肩を並べています。

原発の代替プランで終わるなら

 仮に水素の商用化が始まったとしても、地域にどう反映されるのでしょうか。関連の企業誘致や新たなスタートアップ企業の誕生などを謳いますが、まるで原発立地計画時に描いた夢物語を再現するかのようです。原発によって、地域にどれだけのスタートアップが生まれたのでしょうか。浪江町を訪れても、「水素」への期待の声は聞いたことがありません。「道の駅なみえ」に立って浪江町の風景を見渡すと、どうしても水素プロジェクトは軽く見えてしまいます。モヤモヤした違和感だけが残ります。

 ◆ 写真はNEDOのホームページから引用しました。

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