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人口減・市町村消滅は怖くない(上)キーワード「生成・自治体」住民と共に再設計し、創造

 「日本の人はたいてい驚くんですが、スウェーデンの農家さんはぜんぜん驚きませんでした。当たり前と話していました」。笑いながら話すのは北海道東部の十勝地方の酪農家さん。北海道ならではの「あるある伝説」について雑談した時のことです。

道東は隣の家まで数キロ

 北海道東部の十勝地方からオホーツク海までの地域は農場も牧場もとてつもなく広大。本州と全く規模が異なります。日本で最も広大な町のランキングを見ても、5位までは全て北海道の町。足寄町、遠軽町に続く第3位の別海町は日本一の酪農の王国ですが、人口1万4156人に対し牛の数は11万3722頭(2月末現在)。人口の8倍です。

 「すぐ隣は2、3キロ先にある」と聞けば日本人なら誰もが驚きます。本州なら「ちょっと隣へ」といえば、歩いて数分の距離を示しますが、北海道東部ではちょと隣に行くには車が必携。釧路の知人が目的地を尋ねたら「この道をまっすぐ走って信号2個目の場所」と教えてもらい、「そう遠くない」と理解して走っても走っても1個目の信号機すら見当たらない。「信号2個目に辿り着くのに10キロ以上も走った。同じ道産子でも距離感が全然違う」と苦笑していました。

北欧並みの距離感で行政も変化

 ところが、スウェーデンから北海道の農業を視察に訪れた農家さんは、全く平気。「隣の家が数キロ先にあるのは北欧も同じだよ」と話したそうです。北欧各国は福祉などが充実しており、国民の生活は世界でもトップクラスとして知られています。酪農家さんや農協の職員さんは異口同音に話しました。「日本も北欧並みの距離感で、町を考える行政の発想を学ぶべきだね」。

 その通りかもしれません。そう遠からず日本の市町村の4割が消滅するかもしれないのですから。少子高齢化の加速で人口密度はどんどん低下します。当然、各市町村の人口は減り、大都市でも65歳以上が過半を超える”限界集落”が広範囲に点在する状況になります。もし住民数を確保しようと考えたら、市町村の行政地域を間延びするように広げるしかありません。

市町村の4割は消える

 市町村の減少は机上の空論ではありません。岩手県知事や総務相を務めた増田寛也さんらが主宰する「人口戦略会議」は市区町村の4割に相当する744自治体が住民の減少で行政が成り立たなくなり、事実上自治体として存立できなくなると予想しました。人口は毎年60万人のペースで減り続け、2100年には6277万人に半減するそうです。高齢化率は29%から40%へ。誰が見ても日本の経済は縮小してしまい、介護や防災など行政の役割は維持できなくなり、自治体の行政が根底から崩れます。

 残念ながら、日本の少子高齢化はすでに社会構造に根付いてしまい、子育て支援で時計の針を逆戻りさせるタイミングを失っています。諦めるわけではありません。ただ、可能性を考えたら、94年から人口減に歯止めをかける努力を続けながらも、これまでの常識を全て捨てて、新たな自治体の形を創る時期です。

平成の大合併と異なる発想

 だからといって「平成の大合併」の再現を望んでいるわけではありません。総務省は少子高齢化による人口減に合わせ、行財政強化などを狙って市町 村合併を推進しました。1994年4月から2010年3月までの11年間、市町村数は3232から1727とほぼ半減しました。

 平成の大合併の後も人口減と財源の弱体化は止まりません。子育て支援などで他市町村からの移住に力点を置く施策が話題を集めていますが、冷静に眺めれば自治体同士で住民を奪い合っているだけ。ゼロサム、あるいはマイナスサムのゲームの繰り返しです。

 行政を考える発想を変える時です。例えば、今流行の人工知能、生成AIの発想を活用しませんか。「生成」は英語の「generate」の翻訳で、生み出す意味を持っています。従来の人工知能は学習を繰り返して”賢く”なるのに対し、生成AIは新たなデータを取り込み、提示されたテーマに対する解答を創造します。この発想を参考に、人口減でも住民が求める行政サービスの実現する最適解に向かって、自治体が自らを再設計する「生成・自治体」を創案するのです

自治制度を超えて再設計を

 自治体の行政機能は地方分権を基軸に地方自治制度で定められています。住民に対する責務を全うするためとはいえ、自治体が好き勝手なことはできません。ただ、日本の地方自治制度が前提とする基盤は人口減、市町村消滅で崩壊寸前です。住民から求められる自治機能を維持するには、これまで以上に縦横無尽、融通無碍に変貌する活路を拓くしかありません。

 生成・自治体は、人工知能が最適解を提示するように全国の行政データをもとに直面するテーマを実現する最適解を探し出します。どんな解答が飛び出すかは不明です。これまで活用されている同じ地域の市町村が連携する広域圏を選ばず、飛地のように離れた他の自治体と連携して不足する行政機能を補う方策を提示するかもしれません。

 日本の地方自治をぶち壊すか。破天荒な発想と受け止めるかもしれません。目の前に待ち構える人口減、市町村消滅はかなり破壊的です。この難敵を乗り越えるためには、日本の自治制度の固い殻を一度、壊すしかありません。=次回に続く。

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