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新しい資本主義と日本列島改造論 50年間変わらぬ日本の課題 グルグル回る政策論議

 「しかし、日本の内外の条件は根本的に変わった。こんごは成長を追求するだけでなく、成長によって拡大した経済力を、国民の福祉や国家間の協調などに積極的に活用してゆくことが強く要請されています。私たちは、これまでの『成長追求型』の経済運営をやめて『成長活用型』の経済運営に切りかえるべき時を迎えているわけである」

 ちょうど50年前、半世紀前に出版された「日本列島改造論」(日刊工業新聞社)の一節から引用しました。経済運営を「資本主義」と差し替えて読み直すと、岸田首相が6月7日に発表した「新しい資本主義の実行計画」や骨太の方針と考え方はほぼ重なります。

新しい資本主義とは経済運営を意味していた

 「新しい資本主義」という言葉がどうも理解できません。新しい資本主義の創案に向けて議論し、政策提案する会議が設けられましたが、資本主義という経済のあり方よりも目の前の政策立案に終始し、「これが新しい資本主義なのか」と違和感を覚えていたのです。そもそも資本主義は仮にも社会科学です。古い、新しいと区別する発想がわかりません。新しい資本論と古い資本論はあるのでしょうか。マルクスとエンゲルスが説明しますと天国から戻ってきそうです。しかし、日本列島改造論を読み返していたら、上記の一節を見つけ、腑に落ちました。岸田首相が念頭にある「資本主義」とは「経済運営」のことだったんだ、と。

 日本列島改造論の著者はご承知のとおり、田中角栄さんです。実際は後に通産省次官、アラビア石油社長などを歴任した小長啓一さんや専門紙の記者が執筆したといわれていますが、著者名は田中さん。このサイトですでに何度も取り上げています。私はまだ高校生の頃、自民党総裁選に向けて発表した政策をまとめ、田中首相誕生を追い風に大ヒットしました。今なら流行語大賞を獲得するほど話題を集めました。新幹線や本州四国連絡橋、高速道路網など大プロジェクトが満載で、巨額な資金が日本全国に充満するのではないのかという雰囲気だったと覚えています。世の中の仕組みがまだわからないころでしたから、巨大な利権が絡む土建族を象徴すると著書と思っていました。ところが、改めて読み返すと今の日本の課題を的確に指摘していることに気づきました。「ひょっとしたら、2022年を予言した書ではないか」。

新しい資本主義は列島改造論を書き換えただけ?

 列島改造論の骨子を見てみます。

「一寸先はやみ、停電のピンチ」

 昭和40年代、家庭用やビル用クーラーが普及し、電力需要のピークは夏に訪れます。列島改造論では「電力会社が大口需要家に休日振替などを依頼して受給調整につとめているものの、異常渇水や大容量発電所の長期にわたる事故が発生すれば、電力供給はたちまちお手あげになりかねない情勢である」と指摘します。2022年夏はまさに同じ状況です。政府は節電を求め、エアコンの温度設定を明示して一般家庭にも協力を求めています。

「五時間で焼けつくす東京の下町」

 東京の下町に大地震や火事が発生したらどうかるのか。首都直下型大地震への対策は東日本大震災の甚大な被害を目の前にしたこともあって一段と拡充しています。列島改造論では東京の下町を中心に詳細な被害を予測しており、「問題は林立する高層ビルである」と指摘します。武蔵小杉で被害にあったタワーマンションの悲惨な状況を思い出してください。

 この後も「労働力不足」「福祉と成長」「教育」、今でいうグリーントランスフォーメーション(GX)といえる「無公害工業基地」の建設、「花開く情報化時代」「農工一体でよみがえる近代農村」といった数多くの柱を建てて、必要な政策を説明します。

 田中角栄さんは「成長活用型の経済運営は福祉が成長を生み、成長が福祉を約束する」と明言します。そして最後は「新しい官民協調を求めて」という項目で列島改造論を締めます。もう一度、政府が発表した新しい資本主義や骨太の資料を読んでみてください。情報化時代がデジタル、農工一体を「田園都市」と語句を差し替えると、ほぼ政策の趣旨は変わらないことがわかります。最後の締めが官民協調で同じというのはとても笑えないです。そして「課題解決を通じて新たな市場を創る。国民の暮らしを改善し、持続的な幸福を実現する」を基本思想とするとあります。

課題先進国でも解決能力は発展途上国

 田中角栄さんが唱える成長活用型の経済運営と同じ趣旨です。10年ほど前に東京大学学長を務めた小宮山宏さんは日本を「課題先進国」と捉え、世界各国の先頭を切って問題解決することが貢献できるし、日本経済の活力も蘇ると説きました。どうも課題先進国であっても、課題解決発展途上国であるのは否定できそうもありません。

 

 冒頭の写真を見比べてください。列島改造論の表紙・帯と新しい資本主義と骨太の方針を伝える読売新聞の見出しがなんとなく似ています。経済運営はこんな無限循環のような政策立案を繰り返しているにもかかわらず、防衛費の増額だけが議論を重ねないまま突然に飛び出してきます。

経済学や政治学の先生の意見をもっと知りたいです。

 経済運営は足踏みしながら、昔の書類を書き直し、安全保障は国際情勢に促されるように新しいステップを踏み出す。経済学、政治学の専門家はもっと発言してください。知らない間に窮地に追い込まれ、ドギマギする状況に気づくのはいやです。目の前の課題をもっと知りたいです。それが日本や世界の経済成長につながり、資本主義の進化に貢献できると信じています。

以下が参考資料です。ご一読ください。

新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2022/0607/shiryo_01.pdf

経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2022/0607/shiryo_04-1.pdf

渋澤委員提出資料

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2022/0607/shiryo_02.pdf

 それにしても会議に委員として渋澤健さんが意見書を添付しているのはちょっと不思議です。利益相反の恐れはないのですか。ファンドの主宰者が株式などの投資を促す政策を提案するのは利益誘導につながらないでしょうか。政府が手続きを踏んでいるとはいえ、投資ファンドのトップを務める人材が金融投資の拡大を促すことに疑問は消えません。

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