「黒田総裁・批判記事」とかけて「卒業式の告白」と解きます。「もっと早く言って」

 ふと中学校の卒業式当日の教室を思い出しました。同級生の女子生徒が隣のクラスの男子生徒に「好きです」と告白したのです。その女子生徒は告白の後、顔を真っ赤にして友人に「好きって言っちゃった」と喜んでいました。友人は「相手はどうだった?」と聞き返したら、「だめかも。驚いていただけだから」と言いながらもすっきりした表情だったのをよく覚えています。

中学の卒業式に「好きと言われても・・・」

 告白された男性生徒は親しかったので、「どうするんだよ」と訊ねたら「進学する高校が違うし、卒業式の日に言われてもどうしようもないよ。もっと早く言って欲しかったよ」とちょっと残念そうに消沈していました。

 こんなたわいない思い出を蘇らせたのが、日銀総裁の交代人事です。

 2013年3月に就任した黒田東彦総裁が任期10年を迎えます。後任候補の観測記事などが頻繁に流れていますが、岸田首相は1月22日、2月の国会で日本銀行総裁の後任人事を提示することを明言しました。交代が確実視されたからか、過去10年間の日銀政策に対する批判やコメントが飛び交っています。

日銀総裁の任期末期に政策批判が飛び交う

 「日銀のウソは何度まで許されるのか、10年緩和 強弁が支え」とか、2008年のリーマン・ショック直後、英国のエリザベス女王が経済学者に「なぜ誰も危機を予想できなかったんですか?」と問いかけた例を引用して、黒田総裁の説明は「よく理解されないまま」と専門家による説明は難しいと首を傾げる。「OBも批判する異次元緩和の末路 修正あっても変わらぬ日銀の異常さ」という見出しも見つけました。

 From to ZEROは1年以上も前の2021年12月から、日銀に対して金融政策の行方をもっと具体的に説明してほしいという趣旨の記事を繰り返し掲載しています。後任候補についても、バズーカと呼ばれるなど派手な言動で話題を振りまく黒田総裁のパフォーマンスよりも、現状と近未来をしっかり説明し、国民に理解を求める姿勢を持つ新総裁を期待することを指摘してきました。

From to ZEROは1年前から繰り返し指摘

 最大の理由は、日銀の金融政策が世界や日本の経済環境に適合しているのかどうか。効果を発揮しているのか、いないのか。欧米がインフレに対応して金利を大幅に引き上げた結果、大幅な円安や物価高を招き、国民の生活がどう影響するのか。ロシアのウクライナ侵攻などを引き金に資源エネルギー価格も高騰、日本経済の先行きをどう理解すれば良いのか。ここ2年間を振り返っただけでも、多くの国民は手取り収入が増えない中、不安を覚える材料が続出しているからです。

 ちなみにエリザベス女王が投げかけた疑問に対して、ノーベル経済学賞を受賞したロバート・ルーカスさんは「経済学者の落ち度ではありません。この種の危機は予測不可能だときちんと予測していました」(1月23日付読売新聞)と答えたそうですが、黒田総裁は今年1月に実施した利上げに向けた金融緩和政策の修正を「金融引き締めではない」と記者会見で否定しています。当然ですが、利上げを利上げじゃないと言われれば金融市場は混乱し、ドル円相場や国債はさまざまな思惑を材料に投機筋が儲かるチャンスを与えてしまっています。

経済学と総裁の意地は異次元の世界

 率直に言って「リーマンショックを予測できたかどうか」と「利上げに向けた動きを金融引き締めではない」は岸田首相が多用する言葉を使えば、異次元です。日銀自身が始めた大規模な金融緩和を調整すれば、修正とみるのが当たり前。経済学の世界で語るレベルではありません。単なる意地です。

 日銀の金融政策は新聞・テレビはもちろん、金融界のアナリストら多くの人々から注目され、総裁の一言で大きく金融市場は動きます。総裁の言葉をどう読むのか、文字通り「眼光紙背に徹す」に長けた人々がメディアなどを通じて情報発信しています。ただ、これまで日銀の政策に関する記事やコメントは解説ばかり。日銀の影響力の大きさが背景にあるのかどうか、多くは及び腰。素人目にはおっかなびっくりという言葉が浮かびます。

 ところが、日銀の政策批判が総裁の任期末期になってようやく噴出する。「これまでは解説だけでがまんしてきたが、本音は違うと考え、こう指摘したかった」という印象を持ってしまいます。こんな勘違いが的外れてなかったら、金融の専門家のみなさんは果たして日本経済に貢献しているのか。

これからの難局をどう読むのか、専門家の示唆に期待したい

 3月以降には新しい日銀総裁が日本の金融政策を指揮します。激しいインフレなどで世界経済が不況に陥るのは確実視されています。日本経済が直面する難局を国民、企業がどう理解し、乗り越えていくのか。金融ジャーナリストやアナリストのみなさんにはこれまで以上に時代を読む示唆を期待しています。中学校の友人が残念そうに語った通り、「そんな気持ちがあるなら、もっと早く言ってよ」という時代はもうこれで終わり、卒業しましょう。

関連記事一覧