G7の議題「グローバルサウス」に違和感、地球の危機は「グローバルノース」が根源

 5月19日からG7広島サミットが開催されます。会場は広島市南区元宇品のプリンスホテル。周辺は宇品と呼ばれる地域で、明治の富国強兵政策と歩調をあせて日本軍の重要な拠点・港として発展しました。世界で初めて原爆を被爆した広島は岸田首相の選挙地盤です。ロシアがウクライナ侵攻で核を使用する可能性が指摘されるなか、核廃絶に向けた強い意思を示してほしいものです。

グローバルサウスはサミットの主要議題

 広島サミットで取り上げられるテーマとして「グローバルサウス」が挙がっています。グローバルサウスとは、インドやインドネシア、南アフリカなどアジアやアフリカなどの新興国・途上国を指し、いずれも南半球に位置するため、北半球に集中する先進国と対比して使っています。今は、経済格差や地域紛争に苦しむ新興国も網羅しており、南半球という意味合いから転じています。

 G7サミットの議長を務める岸田文雄首相は、グローバルサウスとの連携強化を訴えています。ロシアによるウクライナ侵攻で顕著に現れているエネルギーなど資源、農産物などの世界的な高騰と供給不安。地球温暖化による気候変動で南太平洋の島嶼国では国土が海面下に沈む不安が広がっています。コロナ禍は収束しましたが、熱帯地域を中心に感染症対策は喫緊の課題です。広島にはインドなどの首脳も集まり、先進国主要7カ国との連携を確認、対立が深まるロシア・中国に対し牽制する姿勢が表明されるのでしょう。

北が南を支配してきた世界史

 ただ、「グローバルサウス」と一括りで議論されることに違和感を覚えます。オーストラリアのシドニーを拠点に南太平洋を飛び回った経験があるせいか、南半球から北半球を眺めていると、「北半球の常識」が「南半球の非常識」に映ることがありました。世界の歴史を振り返れば、コロンブスの”アメリカ発見”はじめ北半球、とりわけ欧州が南半球を植民地化してきました。北半球で当たり前と思っている常識が南半球で非常識であったとしても、微塵の疑問も許されない時代がありました。

 多くの地域で独立国家が誕生しました。しかし、支配した宗主国の言語、歴史、宗教、生活習慣などはその土地に刻まれたまま。政治・経済はほとんどが脆弱。独立後も影響力を保持する旧宗主国もあって、経済・社会福祉などで支援する北半球の国々で協議し、決めたことは南半球の新興国も同意するはず、といった発想から抜け出せません。互いに協議する姿勢を強調しながらも、コミュニケーションは一方通行。

 G7サミットでは、よりグローバルサウスの国々とこれまで以上に対等関係を意識して目の前の危機を乗り越える知恵を捻り出すと期待しています。

北の問題を南を巻き込み、うやむやにしているかのよう

 しかし、それでも違和感が消えない。地球上で起こっている諸問題の根源はどこか。多くは北半球です。地球温暖化を招いているCO2など温暖化ガスの排出、止めのない資源開発と自然破壊、世界を破滅に導きかねない大戦。いずれも北半球の国々が引き起こしています。ロシアの核攻撃の可能性、中国が台湾統一をめざし東アジアが大混乱することも否定できません。地球温暖化による気候変動は、かつて経験したことがないような台風やハリケーンを生み出すほか、北極や南極の氷が溶け、海面上昇を引き起こしています。南太平洋の島嶼国のツバルやキリバスなどは数メートルの海面上昇で住居などの土地が水没してしまいます。

 サミットで北半球の主要国が地球の危機打開に向けてグローバルサウスと共に議論するとはいえ、遠目で見れば北半球、言い換えれば「グローバルノース」の問題を南半球を巻き込んで問題の根源を隠し、すり替えて責任の所在をうやむやにしている印象を受けます。

南半球はむしろ被害を受けている

 グローバルサウスと呼ばれるアジア、アフリカは、人口や資源も多く、今後の経済成長が見込まれています。最近のインドの人気ぶりを見ればわかるはずです。北半球の先進国、とりわけG7にとってグローバルサウスは自国経済のためにも不可欠な存在です。というか、協力してもらわなければG7の経済は今のままでは存続できないでしょう。

 ところが、経済発展する手前で、北半球が引き起こした戦争や地球温暖化で被害を被ることになってしまう。互いに農産物の輸出国であるロシアとウクライナの戦争の余波がアフリカなどの食糧危機を招いているのです。

 G7サミットの主要7カ国は今でも世界経済の過半を握る大国です。しかし、その比率も下がり、経済、人口の規模だけで見れば下位グループへ移らざるを得ない国もあります。

 その代表例は日本です。議長国の日本はグローバルサウスとの連携を唱えるだけでなく、北半球の国々による危機が自ら解決できない自縄自縛に陥っていることを認め、サミットの最大の議題は「グローバルノース」として目の前の危機を乗り切る覚悟を示す時です。

議長国日本は南のために北の問題を解決する姿勢を

 グローバルサウス、グローバルノースが過去の歴史を乗り越えて、一体化して地球課題に取り組む。そんな結論よりも、グローバルノース自らが過去を真摯に受け止め、グローバルサウスのために問題解決するのがまずは優先すべきではないでしょうか。

 北海道出身の世界的な彫刻家、安田侃さんの作品が旭川駅構内に陳列されています。ひょろりと長い卵形の彫像です。タイトルは「天秘」。私には丸い地球が北半球と南半球の思いの食い違いで北と南の距離がヒュ〜と伸びてしまった現代の地球に見えてしまいます。

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