GX債は誰のもの、国民?政府?金融機関? 環境は撒き餌 債券は紙屑にならない?

 脱炭素社会への道筋を描くGX(グリーン・トランスフォーメーション)を実現するため、新しい国債が発行されるそうです。名称は「GX経済移行債」(仮称、以下GX債)。資金調達額は20兆円。もっとも、債券を調達した後に返済するための償還財源はまだ設計されていません。まずは「マネー」の確保が決まっています。岸田首相の言い回しを真似れば、強欲丸出しの「古い資本主義」に胡座(あぐら)をかいた財政政策そのもの。グリーン、あるいは環境という「撒き餌」を見せればお金が集まると勘違いする政府の思惑が透けて見えます。

カーボンニュートラルの加速は止められない

 欧米を中心に広がったカーボンニュートラルへの加速を止めることはできません。ロシアによるウクライナ侵攻で世界が事実上のエネルギー危機に直面している今ですから、カーボンニュートラルの掛け声は昨年よりも小さくなっていますが、地球温暖化への対応は人類存亡に関わることです。遠回りはあっても、忘れ去ることはできません。

 日本政府は脱炭素社会の実現に向け、今後10年間に官民で150兆円規模の投資を目指しています。経団連も政府の考え方を受けてGX実現に向けた道筋を示しています。とはいっても、150兆円の巨額資金を引き出すことは、経済成長が立ち往生する日本経済にとってとても無理。すでに大量の国債発行に頼っている財政運営を考えたら、GX債の発行は自然の流れと誰もが受け止めるでしょう。

GX債の償還財源はまだ不明

 でも、素直に受け止めるわけにはいきません。新しい国債であるGX債を発行した後、償還する財源が明確になっていません。この国債で調達した20兆円で日本の産業構造、経済成長力を変えるのだと雄叫びを上げられても、目先は国の借金が増えるだけ。個人的な経験を例えに不謹慎な例ですが、酔った勢いで「お金はある」と叫んでも居酒屋は許してくれません。

 しかも、国債で調達した資金はカーボンニュートラルに関係する特定の産業に偏る恐れがあります。経済産業省がまとめた「クリーンエネルギー戦略」によると、半導体やデータセンター、再生エネルギー、電気自動車などに集中して投資します。釈迦に説法ですが、国債から調達した資金は日本国民に広く恩恵が行き渡る公共性を重視して投入されるはずです。脱炭素社会の実現という大義名分があるとはいえ、特定産業・企業に集中するとなると「えこひいき」と映ってもおかしくありません。

調達資金の使われ方や財源の設定にも注意が必要

 今のところ、国債の償還財源は償還財源を明確にして発行する「つなぎ国債」を想定しているとの情報があります。その財源候補として電気料金に上乗せされる「再生可能エネルギー賦課金」があがっています。電気代に占める比率は10%以上で、GX債の償還財源として増額されれば、国民は国債という借金と電気代の負担という二重の重荷を背負う格好です。
炭素税も俎上に載っているそうです。企業が発生する温室効果ガス排出量に応じて課税する案で、経団連など企業はかなり後ろ向きです。GX債は特定の産業や企業の投資促進に集中するにもかかわらず、企業活動から発生する二酸化炭素など温室効果ガスの排出や利益に課税されることに抵抗されてしまったら、GX債は国債に適しているのかどうか。

 結局、GX債は既存の国債の流動性が低下しているなかで機関投資家にとって数少ない魅力ある債券として商品化されるのではないでしょうか。「環境」「グリーン」といえば、世界経済の潮流に乗っており、誰もが高い関心を持って注目している。個人も手が出しやすい。その安心感が債券ビジネスにもプラスに働くはずです。ただ、見落としてはいけないのは、GXという考え方は明確でも、日本経済や日常生活への貢献度の数値化はまだ覚束ない状態です。巨額の資金が投入されても、その恩恵をどう感じ取るのか、あるいは納得できるのかは不明です。なにしろGXそのものの道筋は示された段階で、具体的な戦略はこれからです。投入した資金がどう答となって出てくるのかまで行き着くには相当の時間がかかります。

なによりも国民への恩恵の説明がもっともっと必要

 GX債は政府にも企業にも金融機関にもプラスに働く可能性が高い。唯一、明確になっていないのが国民への恩恵です。脱炭素社会への実現といわれても、節電節ガスに追われる不便な生活を強いられ、未来の借金を増やされてしまったのでは納得できません。国債という制度を使うなら、国民への説明が最も重要です。環境という撒き餌で調達されたGX債の資金がどういう使われ方をしたのか明示されないまま、紙屑になってヘドロになったら目も当てられません。国債発行というと縁遠いと感じる向きもありますが、汚泥にならないよう注目し続けたいです。

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