
化石燃料を削減する排出権取引、制度が化石になってしまう無関心が広がる
排出権取引制度が2026年4月から第2フェーズに移行します。といっても、ピンとくる人は何人いるでしょうか。地球温暖化を抑制するため、国連はじめ世界各国は政府が率先してCO2など温室効果ガスを削減する政策を打ち出しました。太陽光や風力など再生可能エネルギー、電気自動車(EV)、合成燃料などが一気に普及し始め、排出権取引制度も脱炭素を進めるカーボンニュートラルの切り札のひとつです。
カーボンニュートラルの切り札
日本は排出権取引制度を2023年からスタート。CO2など温暖化ガスの排出量を株式や債券のように金銭化する売買を開始し、企業が自主的に参加する形で施行を重ねています。2026年3月までを第1フェーズと位置付け、2026年4月から第2フェーズに移行。自主参加は義務化され、対象企業は300〜400社になる見込みです。削減幅は政府が設定します。
第2フェーズの対象企業は年間10万トン以上を排出する大企業。電力会社などエネルギー産業、鉄鋼などが中心を占め、日本が排出する温室効果ガスの60%程度が排出権取引の対象にとなります。7年後の2033年には排出枠のオークション売買を加え、制度として完成するスケジュールです。
ところが、周りを見渡してください。旗振り役の経済産業省などは懸命にPRしていますが、新聞、テレビなどメディアで排出権取引制度は話題にもなりません。制度設計が大企業が主に参加する仕組みであり、取引が複雑なこともあって、日常生活ではほぼ無縁の存在です。
2023年からスタート
排出権取引そのものは1990年代から、欧米や日本など大量に温室効果ガスを排出してきた先進国でその実効性が議論されてきました。2005年、欧州連合(EU)に加盟する25カ国が立ち上げます。まず第1フェーズとして石炭、石油、ガスなどエネルギー産業やエネルギーを大量に消費する産業を対象に取引を開始。その後の成果をもとに制度設計を練り上げて航空、非鉄、海運、中小企業などを加え、現在は第4フェーズに入っています。「確実に排出量は削減している」との意見が多く、2030年には1999年比で55%を削減する目標を設定しています。
日本で話題にならないのも当然です。なにしろ、世界をリードする欧州と比べれば、20年近くも出遅れているのですから。政府はこれまで事実上、制度の普及が経済成長の足枷となることを恐れ、恐る恐る進めている印象です。2026年4月から開始する第2フェーズも2025年5月に成立した改正GX推進法で大枠が決まり、企業別の詳細が固まっている最中です。
制度の仕組みが複雑なうえ、その実効性がわかりにくいのですから、対象となる300〜400社の大企業以外はピンとこないのも当然です。地球温暖化の抑制という身近な問題に直結する重要な制度でありながら、どこか見えない遠い世界で大企業が経産省などと数字の辻褄合わせを繰り返していると勘違いしてもおかしくありません。
本当に実効性はあるのか? 素朴な疑問も残ります。第1フェーズで得られた成果というか、削減効果はいかほどだったのかなど検証する必要があります。専門家の間で議論しているようでは、排出権取引制度は孤立無縁の政策に追い込まれるだけ。
株式市場の二の舞は避けたい
かつての株式市場と同じでは困るのです。日本では株式相場に多額の資金を賭ける昭和の相場師のイメージが定着してしまい、株式市場には金儲けに夢中になる機関投資家ら集まり、巨額資金を使って利益を奪い合う”特殊な世界”と勘違いされていました。ほとんどの国民にとって「素人が株式に手を出すべきではない」が社会常識でした。ここ数年はNISAが始まってようやく多くの国民が株式投資に取り組む空気が広がり、株式投資で得られる優待券目当てで奔走する桐谷広人さんを面白おかしく描くテレビ番組を通じて若い世代にも関心が及んでいます。
無関心は日本経済にも損失
排出権取引制度にも「桐谷さん」が必要です。幅広い支持を追い風に脱炭素を進める社会でしっかり組み込まむことが不可欠です。「よくわからないから、無関心」で良いという認識が広まってしまえば、EV、再生エネなど新しく多様な社会インフラで再構築するカーボンニュートラル社会は到底、実現しません。振り返って「こんな制度があったんだ」と化石を掘り当てた気分になるような制度になってしまったら、日本経済にとっても大きな損失です。

