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人間と熊と鹿(上)人口減と地球温暖化、共生社会とは”天敵”と真正面から向かい合う勇気

「わあ、かわいい。エゾシカに出会うなんてラッキー」。2023年2月、北海道の旭川駅からJR石北本線・根室本線を経由して根室市へ向かう気動車の車内が何度も沸き返ります。エゾシカは線路沿いの林や原野を走り回るため、気動車は警笛を何度も鳴らしますが、すぐそばに寄ってくるので「このままでは引かれてしまう。あっちに逃げて〜」と再び観光客から声が出ます。ちょっとしたエンターテイメントです。

野生動物はエンターテインメントか

 北海道の観光名所、知床半島ではヒグマが道路を歩いていることがたびたび。生息数が増えているため、車が盛んに走る道路でも怖がらずに横断している姿を見かけました。かつてよく見かける野生動物といえばキタキツネでしたが、今はエゾシカ、ヒグマを目にする機会が信じられないほど増えています。観光客にとって野生動物は、愛らしい存在に映るのでしょう。動物園の檻に入ったシカやクマと同じに思えるのかもしれません。

 最近、ヒグマ捕獲による抗議・批判が巻き起こり、北海道庁がSNSを使ってヒグマ捕獲の理解を求めた発信が大きな話題となっています。北海道東部で多くの牛を襲い、NHKが特集番組を制作するなど謎の熊として有名になった「オソ18」を駆除したハンターらが多くの抗議と批判を浴びたため、北海道庁が9月末にSNS「X」を投稿しました。

 ネットメディアによると、投稿内容でヒグマ捕獲は人身事故や農業被害を抑え、地域の安全に欠かせないと強調する一方、「非難は担い手確保の支障となりかねない」と訴えたそうです。閲覧数は2000万回を超え、「捕獲はしょうがない」「(ハンターを)応援している」との賛成の声が多く、「駆除は理解できない」との反対は少数派だったそうです。

 北海道、本州で熊の被害が目立っています。「高い気温が原因で熊が食する木の実などが少なく、人が住む集落に降りてきている」「鹿や牛の肉の味を覚え、牧場の牛を襲うようになった」などさまざまな要因が指摘されています。

大都市圏と野生動物の共生は?

 とりわけ北海道は札幌市など都市圏でもヒグマが住んでいます。「190万人が暮らす札幌のような大都市圏で野生の熊が生きている地域は世界に皆無。人間と野生動物が共生する可能性を探っていきたい」と北海道大学のある教授は語っていましたが、東京や大阪など本州の大都市圏で生活する住民には熊との共生はなかなか想像できないはずです。

 例えば小学校の授業で「熊と突然、出会ったらどうするのか」をテーマに実習体験したことはないでしょう。当時、住んでいた函館市の近辺でも年に数人が熊と出会い、死傷する事例が発生していました。小学生だったとはいえ、「どこか遠い世界の出来事」ではありませんでした。

 先生は真剣な表情で説きます。「熊と突然、出会ったら、目を離すな。死んだ真似なんか通用しない。絶対に目を逸らすな。熊から離れていくまで我慢しろ」。突然、目の前に熊が現れたら、誰でも驚きます。「熊の目から目を逸らすなって言われたってできるわけないだろう」。小学生じゃなくてもわかると思います。

 熊だけじゃありません。林野庁によると、野生鳥獣による2021年度の森林被害面積は全国で約4900ヘクタールで、シカによるものが7割の3500ヘクタールを占めています。10年以上も前の話ですが、エゾシカの被害の拡大が指摘され 駆除の体制強化が始まっていました。ただ、最近はエゾシカの数自体は明治の頃とさほど変わらないと言われています。

 それではなぜ人間が当たり前のように暮らす社会に熊や鹿が加害者として現れるのでしょうか。キーワードは天敵です。

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