円安は国内回帰を招くか⑤ 日本製はT-Rexか哺乳類か 気候変動と通貨が進化を迫る
映画「JurassicWorld/新たなる支配者」の最終シーンを覚えていますか。一度絶滅した恐竜が米国のバイオ技術で蘇り、現代の野生動物と一緒に並んで草原を走り抜けていました。
強者に上り詰めたと勘違いし、変化に乗り遅れる
日本製品の過去と未来を暗示しているようです。強者に上り詰めたと勘違いしていたことに気づかず、再び復活した米国に圧倒され、最後は気候変動によって消滅の運命に追い込まれます。復活するには米国のルールに従い、決められたパークの範囲で生き永らえる。日米の安全保障戦略の一環で最先端の半導体を復活させる今と二重写しになります。
米国主導の利上げ政策で急進した円安も同じです。日米金利格差は広がるばかりで、財務省・日銀は傍観するしかありません。かつてのように円安は日本の産業界にとって干天の慈雨ではありません。短期的な収益にプラスになったとしても、来年以降を考えれば苦境が待ち受けています。
欧米はじめ世界景気は石油・ガスはじめ物価高騰の影響もあって不況の色合いが強くなる見通しです。とりわけ日本は円安による輸入材の高騰を吸収できず、日本経済の背骨ともいえる中堅・中小企業は確実に体力を消耗します。政府や経団連、日商などが賃上げを呼びかけても、「誰に向かって言っているの?」と見回しています。「隗より始めよ」と経団連の主要メンバー企業が3%以上の賃上げを見せてくれという気分です。
恩恵をもたらす円安は、今や体力消耗に
日本は円安の打撃に加え、気候変動リスクも待ち構えています。11月初めにドイツの環境団体がCOP27に合わせて発表した気候変動ランキングで、日本は50位。調査は世界がCO2を排出する90%以上を占める59か国と欧州連合(EU)が対象。日本より下位に中国や米国、オーストラリア、カナダが続きますが、ランキング結果が下位かどうかをよりもCO2など温暖化ガスの排出削減、太陽光など再生可能エネルギーの活用拡大など新たな産業構造の改革が迫られるのは間違いありません。
自動車産業を見てください。1985年から始まった超円高をバネに経営戦略を大幅に軌道修正し、強靭さを増して生き残ってきました。工場は日本から海外へ移転し、為替リスクに柔軟に対応できる体制を整えます。輸出先での現地生産化により国情の変化にも敏感に反応できるようになり、世界企業としての体裁ができあがります。それが日本の基幹産業としての地位と存在感を不動にしました。
気候変動リスクも大きく
ところが、気候変動が自動車産業を支えた岩盤を崩し始めます。CO2削減を求めるカーボンニュートラルは、内燃機関エンジンの延命を許さず、電気自動車などへの移行を求めます。エネルギー効率の向上はともかくエンジンの放棄は、日本経済への打撃が多く、すぐには身動きできません。ドル円相場の変化にあれだけ柔軟に対応できたのに、産業規模が大きくなりすぎて、経営環境の変化に合わせて進化できません。まるで最強恐竜のT-Rexそのもの。
CO2など温暖化ガスの削減、再生可能エネルギーへの転換などのテンポは世界に比べて鈍く、構造の改革も遅くなります。恐竜は小惑星衝突後の氷河期で死に絶えましたが、日本の自動車産業は温暖化で疲弊してしまうのでしょうか。鉄鋼、化学など重工業も同じ運命です。
恐竜が世界を支配した白亜紀やジュラ紀に逃げ惑いながら、生き延びた哺乳類は今の日本で探し出すことができるでしょうか。希望はありました。携帯電話をステージに巻き起こした「手のひら革命」。NTTのiモード、ポケベル、携帯電話などで日本は世界最先端の技術と知見を兼ね備え、シリコンバレーも新しいビジネスの鉱脈があると注目していました。結末は残念、iPhoneの独壇場です。
恐竜に代わる哺乳類が育っているか
日本の産業史は、弱さを強さに変えてきました。戦後、技術を移入して欧米をコピーしながら、自動車や家電製品を生産し、ファッション、音楽などライフスタイルも真似て、今の日本は出来上がっています。「強さが弱さ」に陥ったら、目の前の為替相場、価格高騰、気候変動を跳躍板に「今の弱さから新しい強さ」を編み出す。果敢に挑戦するファーストペンギンはかならず現れます。