神宮外苑は高層ビル、シャンゼリゼは市民回帰、街再生を選択する主役は誰か
東京とパリで対極の街再生が始まっています。東京の明治神宮外苑ではスポーツ施設や高層ビルの建設に伴う樹木が整理されます。これに対しパリのシャンゼリゼ通りは車道を減らして歩道、樹木を増やします。
シャンゼリゼの主役は観光客から市民へ
街再生の理念は人の賑わいを重視する。同じです。ところが、神宮外苑はスポーツ観戦やショッピングを軸に集客。シャンゼリゼはオーバーツーリズムの解消も狙って自動車の流入量を抑え、豊かな樹々の中でゆったりした時間楽しむ空間を創出します。世界でもニューヨークと並ぶ人気都市の東京とパリですが、街再生のベクトルが真逆に向かっています。再開発する街の主役は空間を楽しむ人間なのか、それとも利益を重視する事業者なのか。日本とフランスの違いなのでしょうか。
明治神宮外苑の再開発事業は野球場やラグビー場を建て替えるほか、新たに高層ビルが立ち並びます。これに伴い「いちょう並木」に象徴される樹木が伐採などで整理されるため、日本初の風致地区に選ばれるほど緑豊かな空間が様変わりするとして大きな批判を集めています。東京都知事選でも争点の一つになりました。再開発事業者の代表の三井不動産は9月28日に東京・明治神宮外苑の再開発事業について説明会を開きます。対象は港区と新宿区の住民や事業者です。直近に東京都に報告した伐採本数を減らす見直し案を批判に対する回答として説明します。
神宮外苑は憩いの空間から商業地域へ
しかし、三井不動産が耳を傾ける批判の声は住民だけではありません。隣接する青山通りには一流企業が集まり、表参道などから海外の観光客も含め国内外から多くの人が訪れる国際的な地域に発展しています。周辺がニューヨークの5番街、パリのシャンゼリゼ通りと並んで人気が高いと言われるのも納得です。
神宮外苑は銀座と新宿とは異なる東京のもう一つの魅力を発信する「公共の空間」です。神宮外苑がある港・新宿区の住民が納得すれば、OKということではないでしょう。東京の魅力を世界から発信する視点でもっと議論されて良いはずです。
パリのシャンゼリゼ大通りは東京・青山の明治神宮外苑前の再開発計画と真逆の発想です。凱旋門からコンコルド広場までの1880メートルの街区は世界で最も美しいとフランス人が自慢する世界の観光名所です。しかし、パリ市は観光客と車で溢れ、パリ市民には遠い存在になったと判断したのです。実際、シャンゼリゼ通りは1日10万人が集まりますが、このうち70%以上が観光客、街区で働く人が20%以上占めます。家賃が高いので、住んでいる人は少ないので、深夜はどんな街になるのか。
シャンゼリゼの空気が美味しくなる
パリ市が発表した計画によると、市民が再び気軽に立ち寄る空間に戻すため、車線を半減して車の通行量を減らし、歩道、街路樹を増やします。自動車が走る道路は4車線から2車線へ半減し、エトワール広場の自動車用スペースも縮小。シャンゼリゼ周辺の交通量そのものを大幅に抑制します。その代わりに歩道は広げ、テラス席やベンチを増設。路樹も新たに400本を植樹します。「木のトンネル」と呼ぶ緑の空間を創出し、おいしい空気も味わえるようにするそうです。アイススケート場、簡易プール場の設置も計画され、友人や家族らと憩う空間を創り、車中心の街から人が主役になる街を目指すそうです。
日本の観光地でも海外からの観光客が多数訪れ、地元の住民の生活に支障をきたすオーバーツーリズムが問題になっています。世界的な観光都市であるパリ市は最大の目玉であるシャンゼリゼ大通りの課題を放置せず、市民が回帰する街に戻そうとすることに驚きます。
パリ市が目指す街はすでに神宮外苑に
素敵な銀杏の並木道、広々とした空間に小洒落たレストランが並び、家族や友人らが連れ立って歩き回る空間。毎年秋には真っ黄色に染まった銀杏の落ち葉を踏んで歩く時はいつも感動します。パリ市が取り戻そうとするシャンゼリゼ通りは、すでに神宮外苑で実現しています。どうして壊してしまうのか。気位が高く、なんでも世界一と自慢するフランス、パリは好きになれませんが、シャンゼリゼ通りの再開発だけは羨ましいと思います。