「東証」Buy ? Sell ? 自らの改革あって日本のプライムが世界に近づく
東京証券取引所が2022年4月4日、新しい市場区分を設定した株式取引を開始しました。これまでの1部、2部、ジャスダック、マザーズの4区分は解消され、プライム、スタンダード、グロースの3区分に再編しました。
東証は1980年代から90年過ぎまで時価総額を増やし続け、その時価総額で米国本土が買収できるとまでいわれるほど膨張、世界の株式市場で強い存在感を示した時期もありました。今は米国のニューヨークやナスダックには足元にも及ばず、中国の上海や欧州のユーロネクストにも抜かれ、普通の株式市場になってしまっています。
東証はもうローカル市場
今回の東証の市場改革はどのメディアも取り上げています。わざわざ書くこともないと考えましたが仕事柄、日経平均との付き合いが長いうえ、この10年ほどは東証市場のニュースを伝える仕事をした経験もあります。祝辞の代わりに書くことにしました。
新しい区分については十分にご承知だと思いまので詳細は省きます。ポイントはどのメディアも指摘していますが、「プライム」が本当にプライムなのか。この一点です。東証改革の成否が判明しますし、東証の将来が見えてきます。
プライムは従来の1部企業の中から本当の優良企業を厳選して、再び世界から投資が舞い込む流通市場を形成する狙いで設定されています。基準は流通株式時価総額が100億円以上と1部時代の10倍も高く引き上げたうえ、流通する株式の比率は35%以上。活発な取引対象に値する実力を備えていなければいけません。
コーポレートガナバンス・コードも厳しく設定しました。海外の投資家から「東証上場企業は経営内容がわかりにくい」との批判に応えるため、経営の透明性を求めます。例えば社外取締役会。独立した社外取締役を3分の1以上選任する条件が設定されたほか、選任する人材も取締役として活動できる知識や経験を持っていなければいけません。
環境を配慮した活動も厳密に求められます。地球環境を考慮した経営資源の活用、事業展開などいわゆるサステナビリティをどこまで実践しているか。企業の目標設定、達成状況などを投資家らに国際基準に従って発表しなければいけません。
コーポレートガバナンス・コード、サステナビリティなどの厳格な適用は、欧米の企業にとって当たり前のことです。もちろん建前と本音の世界が欧米にもあり、その隙間を突いて企業の利益を優先した事業展開がなされているとの批判が絶えません。日本の上場企業の場合、ここ5、6年でコーポレートガバナンス・コードの重要性が理解され始めた段階です。カーボンニュートラルなど地球環境と企業経営の関係については、経営目標に掲げた程度で、実際の事業では遅れが指摘されてもしかたがない企業が少なくありません。
プライムにふさわしい上場企業は何社あるのか
本当にプライム上場の区分にふさわしい企業が何社あるのか。わかりません。ただ、東証1部2177社のうちプライムに移行したのは1839社もあります。大変失礼かもしれませんが、プライムの基準をしっかりクリアした会社は何社あるのでしょうか。基準をクリアできないまま移行した会社は295社あるそうです。全体の16%に相当します。
東証の市場区分の改革が持ち上がった際、多くの上場企業からかなり強いブーイングが起こりました。もしプライムとして生き残れなかったら、株価は下落しますし、対外的な評価も低下します。企業価値のみならず人材採用や取引条件など信用力で大きなハンディを追う羽目になるからです。
ある上場企業の社長はもう6年も前にグループ会社の社長らを前に恫喝していました。「うちがプライムから外れたら、どうかなるか。会社の信用、新卒採用などで格落ちだ。グループあげてプライムに残れるように業績を改善するぞ」。会議の一同はシ〜ンと沈黙だけが響き渡りました。
しかし、そこは本音と建前を使い分け、不透明な株式市場との評価を保持してきた東証です。基準達成を確約した計画書を提出すれば、プライム合格とする経過措置を設けたのです。それが295社です。経営の実態を詳細に見れば、295社の数はもっと増えるかもしれません。