大学生の頭脳を鍛えるマンガとゲーム 日本はカムイ伝、米国はゼルダの伝説

 任天堂のゲームソフト「ゼルダの伝説」にハマって20年以上になります。きっかけは息子が欲しいと言うので買ったのですが、それまでゲームはインベーダゲームぐらいしか経験がありませんから、なかなか物語を進めることができない。攻略本を見ながら一緒に遊んでいたら、遊びどころから真剣に主人公リンクと冒険する羽目に。今では大人になった息子から「ゲームは2時間まで」と諭される始末。

ゼルダとの付き合いは20年以上

 ゼルダの伝説は1986年に発売され、以来シリーズ作品を重ねながらいずれも世界で大ヒットしているロールプレーイングゲームゲームです。その物語性、独創性は高い評価を集め、作品の質は世界一と言われています。

 新作は2023年5月に発売された「ティアーズ・オブ・ザ・キングダム」。攻略本などに頼らず挑んでいますが、生来ゲーム脳を持っていないせいか迷路にはまり込み、解決策を見出せず立ち往生してばかり。高齢も加わり、闘いの場面ではスピードと集中力がついていけず、ほとんど完敗。既成概念に囚われず自由なアイデアを捻り出す若い頭脳でなければとてもゴールできないと嘆いていたら、米国の大学でもそう考える先生がいました。

米大学は工学部で教材に

 時事通信は12月3日、米メリーランド州のメリーランド大が今年秋から「ゼルダの伝説 ティアーズ・オブ・ザ・キングダム」を工学部の授業で活用していると伝えました。受講希望が殺到し、キャンセル待ちが定員の2倍以上に達したため、当面は毎学期開講する日程に設定したそうです。反響が凄すぎます。

 担当のライアン・ソチョル准教授によると、コンピューターを使った設計などの代わりにゲーム機「ニンテンドースイッチ」を使い、設計した乗り物の速さをチーム戦の形式で競います。コンテストで1位を獲得した学生には「Aプラス」の成績を与えるそうです。プロのeスポーツ並みの熱い競争になるでしょうね。

若い頭脳を刺激するきっかけに

 自由な発想で多様なアイデアを考案し、結果を競い合う素材として「ゼルダの伝説」は相応しいかもしれません。ゲームは全体の物語の筋書きを理解しながら、途中に現れるキャラクターの助言を頼りに主人公リンクに備えられた特殊能力や道具で解決するのが基本です。「ティアーズ・オブ・ザ・キングダム」の場合、空、地上、地下すべてを舞台に飛行機、車両などを製作しながら、飛んだり走ったりするのですが、手持ちの特殊能力はふんだんにあります。

 武器や部品など溶接できる「スクラビルド」、以前に製作した設計図を再現する「ブループリント」、時間を逆戻りさせる「モドレコ」、頭上の岩盤などを通り抜ける「トーレルーフ」など。あったら便利といった機能が新たに加わり、自由に飛行機や車両を製作でき、時間と空間に縛られずに移動できます。その自由度、開放感は半端ない。

 時事通信は、ソチョル氏は「このゲームは、学生が機械設計の能力を磨くのに役立つユニークな手段を提供していると感じた」と語り、サミュエル・グラハム工学部長も「ゲームは若者が工学などに興味を持ち、現実世界の課題解決に役立つツールを作る入り口となる」と指摘したと伝えています。

法大の田中優子さんは「カムイ伝」を講義に

 偶然ですが最近、法政大学の学長も務めた田中優子さんが大学の授業で「カムイ伝」を使っていることを知りました。田中さんは江戸学の第一人者として知られ、テレビにもよく登場しているのでご存知の方は多いと思います。2006年から講座『カムイ伝から見る江戸時代』を開講し、教材に使うカムイ伝を採用しています。 

 カムイ伝は、白土三平の名作漫画として1970年代に広く読まれ、学生運動のバイブルとなりました。内容は江戸時代の士農工商という定型化した階級社会の実相を描いています。武士が支配していると思われていますが、実際は農家、漁師、マタギら階級社会から見ると下層と見られる人々が逞しく生きる姿が主役です。

 田中さんは著書「カムイ伝講義」で学生が江戸時代の社会構造を読み解くきっかけになると考え、中学校や高校の教科書には登場しない江戸時代のもう一つの歴史を知ってほしいと狙いを説明しています。「その向こうに近現代の格差・階級社会を見ていた。白土三平はカムイ伝を描きながら21世紀の日本を見通していた」というのが田中さんの視点だそうです。

ゼルダのように自由に、カムイのように挑む

 大学の教材としてゲーム、マンガが採用されたからといって驚きはしません。むしろ、新たな視点を通常の教材では提示できず、悶々としている教授陣の姿が思い浮かびます。大学生も、ゼルダのように地上を走るだけでなく空中をパラグライダーを使って飛び回ったりワープで瞬間移動する発想を持てないのかもしれません。

 インターネット、人工知能など未来社会が産物と思われている技術やアイデアが目の前にどんどん登場しているにもかかわらず、現実社会の若者はゼルダのように飛んだり跳ねたり、カムイのように社会の壁を突破する力を失っているのでしょうか。ちょっと寂しい。

関連記事一覧

PAGE TOP