• HOME
  • 記事
  • Net-ZERO economy
  • 鈴木農水相「米の需給調整するが、価格にコミットしない」農家を食い尽くす責任回避の農政再び

鈴木農水相「米の需給調整するが、価格にコミットしない」農家を食い尽くす責任回避の農政再び

 農林水産省の官僚がホッと胸を撫で下ろし、「してやったり!」とほくそ笑む姿が目に浮かびます。その視線の先には小泉進次郎氏に代わって就任した農林水産大臣、鈴木憲和氏の姿があります。

「農水省が価格にコミットすることは、政府の立場ですべきでない」。就任当初から米の価格に直接介入することを否定。米価格の高騰退治を掲げた小泉農相が推し進めた米流通を軸にした農政改革を真っ向から切り捨てました。かなり強引だったのは事実です。備蓄米を大量放出してコメ価格の引き下げに奔走。返す刀で農水省が長年主導した稲作政策を否定するとともに、日本の米流通を支配する農協や米卸を悪役に仕立て、強い表現で非難しました。

「伝統的農政への回帰を鮮明」

まるで鈴木農水相、農水省の思いを代弁したかのような新聞記事をみつけました。11月27日の農業協同組合新聞です。

米の買取販売の押し付け、米卸叩き……。「小泉劇場」の負の遺産の後始末に鈴木憲和農相が追われている。国会審議では、米卸にお詫びする一幕もあった。鈴木農相は、「悪者」を仕立て世論を煽る手法を否定し伝統的農政への回帰を鮮明にするが、前大臣時代からのツケはまだ残っている。

 もっとも、今度の鈴木農水相もかなり強引。何事も一刀両断してしまう小泉氏と違い、柔和な笑顔をみせながら意味不明な発言を繰り返して「令和の米騒動」で露呈した日本の農政の問題点をあたかも無かったかのようにうやむやにしています。

 例えば、依然続く米高騰の現状に対する政策の方針説明。政府としては、コメの価格に直接介入することはしないものの、コメの需給量を精密に把握したうえで、備蓄運用や流通調整によって需給バランスを調整し、結果的に安定的な価格と量を流通する」と説明します。うっかり、そう!と聞き流してしまいそうですが、とても不思議な言葉の羅列です。

価格を決めるのは需給調整

 モノの価格は市場原理に従い、需要と供給のバランスで決まります。米以外を例に探すと、物価の優等生といわれた卵はどうでしょうか。ここ数年の高騰は、鳥インフレなどで産卵する鶏が急減してしまい、卵の供給が減ってしまいました。卵を食べる消費者やオムライスなど料理に使用するレストランなどの需要に変わりません。供給が需要を大きく下回れば、なんと手に入れようと価格が上がっても購入する需要が増え、あまりの高さに手がでない価格に高騰するまで値上がりは続きます。

 価格が需要と供給で決まるなら、鈴木農水相の発言の矛盾は歴然です。コメの需給量を精密に把握したうえで、備蓄運用や流通調整によって需給バランスを調整し、結果的に安定的な価格と量を流通することに努力するわけですから、どう考えても価格の決定まで影響が及びます。もちろん、1円単位まで精緻に操作できるわけがありませんが、大まかな価格帯を想定して落とし込むことは可能です。新たな価格対策として提案する「お米券」は農水省が抜本的な改革から目をそらすための「目くらまし」にすぎません。

 いまさら驚くことはありません。農水省はこれまでも需給見通しを公表しながら、米の生産を調整し、事実上価格を支配してきたのですから。「令和の米騒動」で備蓄米が大量放出されましたが、そこで明らかになった米流通の実態は、農水省の配下にある農協、米卸など既存の集荷業者で固められ、新規参入などを事実上締め出していることでした。農水省は「価格決定にコミットしない」と言明しても、米流通は農水省の箸の上げ下ろしを注視しており、その息遣いに合わせて米価格は決まっていくのです。農水省が言葉で指示する必要はないのです。

 なぜか? 1942年に交付された食糧管理法まで遡る必要があります。戦時中、米は配給で統制されていましたが、戦後も食糧不足を解消し、国民の食糧を安定させることを目的に食管法は生き続けました。政府が生産者から米を買い入れ、消費者には安く売る仕組みを原則に需給調整していました。1980年代、コメ流通を取材して新聞に特集記事を掲載したことがありますが、食管法という堅城の中で農水省、農協、コメ卸売などが阿吽の呼吸でやりとりしている様には正直、驚きました。

農水省の申し子のよう

 1995年に食管法はコメ余りや食管会計の累積赤字などを理由に廃止されました。法律は消えたものの、流通を仕切る役者は変わりません。他に侵されない既得権は守るのが当然です。しかも、稲作農家の多くは農水省や農協の影響力から逃れることができません。稲作農家の自由な経営を許さない減反政策は2018年に廃止されましたが、農家経営はすでに疲弊しています。親戚の稲作農家はかなり広い田を耕していますが、「稲作をやめた方が家に現金が残る。先祖からの土地を守るためにやっている」と漏らしていました。

 鈴木農水相が農水省の意を呈しているのは当然です。東大卒後、2005年に農水省に入省。2012年に退官し、その年の12月の総選挙で山形県から自民党候補と出馬し、農産物も含む自由化を謳ったTPP(環太平洋経済連携協定)反対を掲げて当選。翌年、当時の安倍晋三首相がTPP賛成を表明した後も反対を貫き、次期総選挙でも再選。鈴木氏は農水省の申し子といってもおかしくないでしょう。 

 日本の米はまだ廃止された食管法の亡霊に惑わされ、米の生産、流通は陰で農水省が操り人形のように支配しているのです。鈴木農水相が繰り返す矛盾を孕んだ発言は日本の農政が先祖返りすると宣言しているのかもしれません。農水省は「令和の米騒動」が一過性のものと考えているかもしれませんが、最大の犠牲者消費者だけでなく農業の担い手である稲作農家であることを肝に銘じてほしいです。

関連記事一覧