釧路市がノーモア宣言、太陽光・風力の再生エネだけで地方は回生しない

 

 釧路市は6月1日、大規模太陽光発電所(メガソーラー)の新規建設を望まない「ノーモア メガソーラー宣言」を行いました。日本最大の湿原でラムサール条約に登録されている釧路湿原の周辺でメガソーラーの建設が相次ぎ、環境破壊による悪影響が日常生活や野生動植物に広がっているからです。

 再生可能エネルギーでは三菱商事などが秋田県と千葉県で計画されていた洋上風力発電が突然、頓挫し、地域経済に打撃を与えています。石油などを輸入に頼る日本にとって再生エネは今後も拡大する方向ですが、建設場所の地域で暮らす住民の生活や自然を破壊してしまったら、本末転倒の極み。再生エネを推進する国や地方自治体は、よりきめ細かい政策が求められています。

ノーモアメガソーラー宣言書

釧路市のHPから

 釧路市の宣言は、釧路湿原周辺での太陽光発電所建設に対し「生態系の崩壊に伴う生物多様性の低下を引き起こし、湿原の減少が防災・減災機能の低下を招く恐れがある」と指摘。「雄大で豊かな自然環境を守るために自然環境と調和がなされていない太陽光発電施設の設置を望まない」と明言しました。鶴間市長は「(事業者への)お願いベースで強制力はない」と説明していますが、9月の市議会でメガソーラーの建設規制条例を制定し、現在は対象外となっている市街化調整区域を含め市内全域に許可制を導入する考えです。ちなみにノーモアメガソーラー宣言は2023年に福島市が行っており、釧路市は全国で2例目。

 釧路市にとってメガソーラーの建設規制は苦渋の選択だったかもしれません。地域経済は水揚げ日本一と誇る漁業が主力ですが、かつての石炭業などが廃れ、これから期待できるのは観光による集客ぐらい。地域の雇用機会が少ないため、生活保護の受給率が高く、母子世帯の比率は全国平均の2倍以上となっています。

釧路経済は疲弊し、生活保護受給率は高い

 釧路市内に出力1000キロワット以上のメガソーラーは20カ所にあり、半数近くが釧路湿原周辺にあります。広大な用地があるうえ、日照時間が全国平均を上回るため、太陽光発電の適地として注目され、建設計画が相次いでいます。発電所建設が増えれば地域に新たな投資が加わり、雇用機会が生まれます。地域経済の活性化を考慮すれば、決して悪い話ではありません。

 しかし、釧路湿原は日本にとって貴重な財産であり、釧路市の未来を支えるエネルギーの根源でもあります。

 あの素晴らしい自然を感じたことがありますか?地平線を見渡す雄大な湿原を歩き回り、湿原を流れる釧路川をカヌーで漕ぎ、木々や湿原の豊かな自然を体感してみてください。鶴やエゾシカ、運が良ければオジロワシなどの野生動物を間近に見ることができます。海外からの観光客も着実に増えており、漁業以外の停滞する地域経済を飛躍させる力を感じるはずです。

 再生エネを悪者にする考えはありません。原子力発電所の建設計画を長年、取材してきましたが、大規模発電の建設計画が最優先すべきことは建設する地域といかに密接な関係を構築するか、そしてどう貢献するかです。事業採算だけを考え、推進と言いながら突然中止するのは地域に大きな打撃を与え、一種の風評被害を招きます。

地域と密接に、そして貢献を

 例えば三菱商事の洋上風力発電はどうでしょうか。2025年2月、三菱商事、子会社の三菱商事洋上風力を中心とする企業連合は秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、由利本荘市、千葉県銚子市の3海域で進めていた事業計画を「ゼロベースで見直す」と表明しました。事業費が世界的なインフレや円安などで、輸入する風車などが予想を上回るコストに上昇、採算が合わなくなったと判断したそうです。三菱商事は事業見直しに合わせて522億円も減損処理しました。

 2021年から秋田、千葉両県で進めていた事業は巨大プロジェクトです。国の洋上風力発電事業の「第1ラウンド」と呼ばれる公募事業で、総額1兆円に迫る規模といわれています。三菱商事はライバル社が驚く安い価格で落札しており、以前から事業の行方が疑問視する向きもありました。

 巨大プロジェクトを受けれ入れる地域にとって寝耳に水です。洋上風力発電は太陽光発電や陸上風力発電と違って沖合に風車を設置するため、通常の再生可能エネルギーの建設事業よりも高度な技術が求められるうえ、漁業関係者ら幅広い層と環境保護などについて議論し、合意する必要があります。三菱商事洋上風力などは現地の住民らと一緒にどう成功させるかに向けて努力したようですが、突然の中止は受け入れる地元からみればこれまでの努力が水の泡になる思いでした。

 風力発電を巡る事故は羽根の破壊が秋田県で新たに発生しています。再生エネの発電所計画は、やっぱり不安だという認識が定着してしまうと今後の新規の計画は立ち往生します。

大都市圏の住民も痛みを感じて

 駆け足で進めてきた再生エネ開発は見直す時期を迎えているのです。一度、空を見上げて太陽を、あるいは風の強さと音を体で感じて考えてみましょう。地域の住民だけの話ではありません。東京など大都市圏で電力を消費する住民も真剣に太陽と海と風を体感し、自分たちの生活を支えているエネルギーについて考え、建設地の痛みも感じてほしいです。

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