地方行政のデジタル 市役所庁舎が消える日が訪れるか

 岸田首相が6月21日の記者会見で、行政のデジタル化を進める「令和版行財政改革」を表明しました。行政のデジタル化を通じて国が地方を支える仕組みを整え、人手と待ち時間ばかりが奪われる「お役所仕事」を一新するそうです。背景にはマイナンバー制度のトラブル多発に伴うボロ隠しがチラチラ見えますが、市庁舎の建設など箱物に多額の予算を投じる地方行政を根底から変える好機になって欲しい。「中堅都市なら庁舎は不要」といえるぐらい発想を転換すれば、実現に向けて技術革新やスタートアップを生む地方の新しい活力となるはずです。

北見市の「書かない窓口」が先進事例に

 突飛な発想!?と思いますか。実は、「地方行政のデジタル」はすでに始まっているのです。岸田首相が唱える「令和版行財政改革」は後追いに過ぎません。

 北海道の北見市。全国から視察が相次いでいます。目的は「書かない窓口」を体感することです。北見市は2009年から証明の申請書や住民移動の届出書などを書かずにワンストップですべてを済ますことができる業務改革に取り組み、実現しています。

 仕組みをサクッと説明します。市役所の窓口職員は、まず申請や届出などで訪れた来庁者から本人確認書類の提示などを受けます。続いて、確認書類の情報から対象者を検索し、来庁者が求める証明書や届出書をパソコンで一緒に作成します。市庁舎内をあちこち歩き回ることもなく、来庁者の手間も時間も削減でき、合わせて市職員の業務作業量も減少できる一石二鳥のサービスとなっています。

 北見市が取り組みを開始した2010年ごろ、窓口業務を体感したことがあります。当時の北見市は市庁舎の建て替え問題が市長選で大きなテーマとなり、選挙後も紛糾し続けました。建て替えるといっても、巨額の予算が必要。地方自治体の多くは厳しい財政状況に苦しんでいます。北見市は二転三転して結局、2011年には老朽化した旧市庁舎が解体され、仮庁舎が10カ所程度に分散して市の業務を維持しました。

市庁舎建て替え問題で業務が分散化

 「市民にとっての利便性が低下するのでは」と疑問視する声も聞きましたが、北見駅前のスーパーが入居するビルに間借りしたこともあって「買い物ついでに手続きができる」「バスターミナルの待ち時間を利用できる」などの声が圧倒、一時は「このまま市庁舎は不要じゃない?」といった意見すら出てきました。

 業務が市内に分散した結果、デジタル技術をフルに活用する発想が一気に広がり、市民にとっても市職員にとっても負担を軽減できる「書かない窓口」の下地が整ったと考えています。

松本市は「デジタル市役所」

 北見市と同様の発想でデジタル化を進めようとしているのが長野県松本市。行政機能を市内各地に再配置する「分散型市役所」を考え、長野県内の大手企業などを巻き込んで「デジタル市役所」の実現に向かっています。

  ◆松本市の分散型市役所の構想図は、下記を参照ください。市役所のHPから引用しました。

 地方行政をデジタル化すると、パソコンなどに不慣れな高齢者らが苦労するとの声があります。それは杞憂です。北見市のみならず多くの自治体で取り組みが始まっており、成功と失敗の経験が山積みになっています。地方行政のデジタル化の技術もどんどん進んでおり、今人気の人工知能(AI)の応用も後押しして、デジタル上のサービス処理はわずかな手順で済むようになります。

人工知能も手伝ってくれる時代に

 しかも、デジタルで分散処理できれば、わざわざ市役所に足を運ぶ手間も時間も不要になります。高齢化が進む地方都市では、交通手段であるバスの便数も減り、市役所に向かう移動がより重い負担となってきます。自宅、あるいは近くの事務所で手続きが済むようになれば、交通費も不要になり、体もお金もぐっと楽になります。

 私が住んでいる都市では市庁舎の建て替えがもう何十年も市長選などの選挙の主要テーマとなっていますが、今も建設の目処が立っていません。建設資材の高騰もあって、当初想定した建設費で完成できるわけがありません。人口減と福祉費用の増加がダブルパンチとなって地方都市の行財政はますます厳しさを増します。100億円単位のお金も注ぎ込んで市庁舎を建設しても、どれだけのメリットがあるのでしょうか。

市庁舎の建設費はデジタル化へ使う

 市庁舎を建設するぐらいなら、高齢化社会にふさわしい地方行政のデジタル化を進めるお金として使いましょう。

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