政府・日銀 円安の為替介入はもうやめたら 世界はその力を見透かしている

 政府・日本銀行は、そろそろ「円の実力」を認め、為替政策を軌道修正する時を迎えています。ドル円相場は1ドル160円台を挟んで推移し、歴史的な円安と呼ばれていますが、果たしてそうでしょうか。確かに1ドル160円台は1986年12月以来。37年と7ヶ月ぶりです。これだけでの年月が過ぎた間に日本経済の実力は37年前と現在では様変わりしています。当時の米国に迫る昇竜の勢いは失せ、今は数年後にはインドに抜かれる見通しです。

日本経済はインドにも抜かれる

 為替相場はその国の経済力を先読みする指標のひとつです。もちろん、為替相場の上げ下げに伴うキャピタルゲインを狙ってマネーゲーム仕掛ける投機家がいるわけですから、時々の為替相場が国の経済力を素直に反映しているわけではありません。ただ、実際とはかけ離れた円高、あるいは円安を仕掛けても長続きはしません。無理に背伸びして爪先だちで頑張っても、結局は元の木阿弥に戻ります。経済の実勢を無視した為替取引は、最後に負けるのです。それは投資家だけでなく、国の場合もあります。

 その好例はジョージ・ソロスと英イングランド銀行の闘いです。1990年代、英国はEC(欧州連合)の通貨管理体制ERMに参加しましたが、ソロス氏は経済力が衰えている英国が好成長を遂げるドイツを軸にしたERMと連携し続けるのは無理と判断、100億ドルに相当する英国ポンドを売り浴びせます。英国の中央銀行であるイングランド銀行は買い支えますが、支え切れずERMから脱退で闘いは終幕。ソロス氏の勝利です。世界的な投機家から投資家へ評価を定めました。

ソロスと英国中央銀行の戦いを思い出そう

 2024年に入って政府・日銀は1ドル160円を突破する円安の流れを食い止めるため、4月末に9兆円余りの為替介入を実施しています。円相場は一時4円以上も円高へ動きましたが、次第に160円台へ戻ります。7月中旬にも再び3兆円を投じて介入しましたが、円高にシフトする期間はわずか。ドル円相場は振り子のように円高へ振れても、160円台の円安に戻っていきます。

 政府・日銀の為替介入の狙いは、投機的な為替相場を雲散させ、適切な相場形成を促すことです。今後、日米の金利格差が縮小する方向にあるため、1ドル160円台は投機的なマネーゲームによる演出であり、この円安が日本経済に打撃を与えるのはけしからんというわけです。しばらく経てば150円、140円へと円高へ振れる。それまで一時的な円安は阻止すると為替介入で宣言しているのです。

 もっとも、為替介入の効果がどこまで続くのか。鈴木財務相は円安に振れるたびに「為替の水準はファンダメンタルズを反映して市場で決定されるものと考えている。安定的に推移することが望ましく、急激な変化は望ましくないし、特に一方的動きには懸念を持っている」と牽制していますが、原稿を棒読みする印象しか受けない財務相の言葉に強い決意を感じる投資家はいないでしょう。

 日本の円がポンドと同じ末路に至ると考えていません。ただ、日本の経済力は1990年代の英国と同様、衰弱しています。日本の為替介入を指揮する財務省の神田眞人財務官はNHKの番組で日本に対する世界の関心が無くなっていると指摘しており、「国力を強くするしかない」と本音を明らかにしています。神田財務官は、もうドル円相場の介入に限界があることを理解しているはずです。

為替は実勢に任せ、経済改革に注力

 1ドル160円は日本の国力を反映した実勢なのでしょう。日米の金利差が縮小へ転じれば円安の勢いは失われるはずですが、短期的にはともかく中長期で眺めれば反転の勢いが増すとは思えません。為替介入しても、それはむしろマネーゲームを楽しむ投資家の財布を膨らませるだけではないでしょうか。世界の金融業界は、日本の円がかつての勢いを取り戻すと考えているとは思えません。日本政府・日銀の揺らぐ胸の内は見透かされているのです。

 国力が衰弱している理由は明快です。この30年間余り、経済成長も年収も横ばい、事実上ゼロの数字が並んでいるにもかかわらず、日本は腹を括った改革や挑戦を先送りし続けました。その国の通貨が国力を反映していると考えれば、止まらぬ円安は日本経済の実力を表しているだけです。

 日本経済の復活のためには従来の発想を捨て、為替介入をやめたらどうでしょうか。円安がどんどん進み、物価に歯止めがかからないと危惧する声が出ると思いますが、日本の近未来に対する危機感を共有するためには必要かもしれません。強い過ぎる劇薬になるかどうか心配ですが、為替介入で投機筋を儲けさせるのはバカバカしく、国の財産の無駄使いです。

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