太平洋・島サミット ニューカレドニアを「天国に一番近い島」と呼ぶ日本の無関心

 7月16日から18日までの3日間、東京で「太平洋・島サミット」が開催されます。南太平洋の島嶼国16カ国・地域の首脳が参加し、岸田総理大臣が共同議長を務め、気候変動や災害対策、海洋の安全などを討議します。南太平洋の国・地域の連携は1971年から始まった太平洋諸島フォーラムがあり、日本はオーストラリア、ニュージランド、米国と並んで深く関与していました。太平洋・島サミットは日本が主導する形で1997年から3年に1度、首脳が集まり、太平洋での日本の存在感をより強く訴えるのが狙いでした。

東京で3年に一度の首脳会議

 これまでは経済協力や気候変動対策などが主なテーマでしたが、今回は太平洋で台頭する中国への牽制も加わります。読売新聞によると、サミットで採択される共同行動計画では島嶼国への海上自衛隊艦船の寄港を増やすなど安全保障面も拡充します。米中対立の最前線である南太平洋地域により具体的に、そして深く関係する姿勢を強調することになります。

 米国との安保連携を強化する日本政府の思惑は理解できますが、日本の世論はどうでしょうか。中国との対立構図を念頭に連携強化する狙いとはいえ、日本国民の多くに南太平洋の外交・安保面の重要性が浸透しているとは思えません。

 サミットの事務局は島嶼国・地域の首脳が「やっぱり日本はいい国だと思ってもらいたい」と話しているそうですが、日本の国民に対し島嶼国・地域がいかに重要で、一段と連携する必要があるかについて説明しているのでしょうか。南太平洋地域をめぐる政策に関する認識で政府と国民の間に大きな乖離があります。

ステレオタイプのイメージだけが残る

 端的な例は「天国に一番近い島」ではないでしょうか。フランス領ニューカレドニアは今でも日本でこう呼ばれます。赤道を超え、日本からはるか向こうの南太平洋にあります。南の島といえば、ほとんどの日本人はすぐに「ハワイ」を思い浮かべるはず。最近では赤道直下のナウルがSNSの「なかの人」が綴るコメントが面白いと話題になっていました。共通するのは、「南の島」=「青い空、青い海に囲まれたのんびりした生活」というステレオタイプです。

 しかし、「天国に一番近い島」は先住民カナックの人々にとって、とても天国とは程遠いのが実相です。ニューカレドニア、タヒチなどフランスの旧植民地である仏領ポリネシアでは社会的差別や所得格差に抗議し、フランスからの独立を目指す動きが長年続いており、2024年5月にもニューカレドニアの首都ヌメアで暴動が発生しました。

先住民の独立運動が続き、暴動も発生

 ニューカレドニアの場合、先住民カナックは人口の4割を占めていますが、フランス系住民との差別・格差による困窮する生活から脱するため、独立運動を求める住民投票が過去、何度も実施されています。5月の暴動も新たに移住してきた住民にも地方参政権を拡大する憲法改正の動きに対する抗議でした。フランス本国としては独立を認めたくないため、住民投票を実施しても反対票を増やす目論見でした。今回の暴動によってマクロン大統領はニューカレドニアを訪れ、憲法改正の手続きを延期する考えを示しましたが、本国の政治的な混乱も加わり、先行きは不透明です。

 主要産業の観光は多数の死傷者が発生した暴動のニュースが大きく伝わったため、大打撃を受けています。新婚旅行など日本人にも高い人気を集めていましたが、クルーズ船のツアー、オーストラリアなどの航空路線は中断したまま。ニューカレドニアはニッケルの世界的な鉱山を抱え、経済を支えていますが、多くの雇用を生み出す観光産業が止まってしまえば、地元経済は停滞するのは確実です。

 暴動を引き起こしたカナックの人々も経済的な打撃の大きさは理解しています。それでも、抗議を繰り返し、独立を勝ち取らなければ、現在の生活レベルを改善できないほど苦境にある。こうした覚悟を日本で理解できるでしょうか。

60年近いイメージが続く現実をどう受け止める?

 「天国に一番近い島」のイメージは森村圭さんが1966年に出版した旅行記「天国に一番近い島」がベストセラーとなったのがきっかけでした。その後、NHKの「朝ドラ」の原作となり、1984年には映画が製作されて大ヒット。主演の原田知世さんが歌う同名の主題歌もヒット。日本国中に定着したものです。

 NHKなどマスメディアも、視聴者や読者の関心を引き込むため、あえて「天国に一番近い島」というキャッチフレーズを使っているのだと思います。しかし、もう60年近い前のイメージが今も引用せざるを得ない事実は、日本国内で南太平洋の実情がほとんど伝わっていなかった現実を教えてくれます。島嶼国の実相と日本国民のイメージの間に横たわる大きな乖離。日本政府や外務省はどう解消しようとしているのでしょうか。

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