NHK プロ野球 財界「誰も異論がない」前例踏襲の人事が日本を変えない

プロ野球は元経団連会長

 たまたまですが、稲葉さんのNHK会長就任が決まった同じ日、プロ野球の新しいコミッショナーに榊原定征さんが就任しました。榊原さんは東レ社長や経団連会長などを歴任し、関西電力会長を務めています。財界を代表する人物で、79歳。財界出身者は前任の斉藤惇さんに続く2代連続。ちなみに斉藤さんは証券業界出身。個人的には経団連会長といえば東京電力の平岩外四さんが思い浮かぶのですが、プロ野球コミッショナーに就任する人物が現れると予想もしませんでした。

 榊原さんは「子供の頃から野球ファン。何か貢献できたらと考えて引き受けた」と読売新聞の記事で述べています。東レ、経団連時代をみても、榊原さんは手堅い手腕を発揮して、組織の活性化に成功しています。

プロ野球は今やローカルコンテンツ

 ただ、プロ野球はNHK同様、激動期にあります。サッカーなど他のスポーツとの競合もあって、いまや球団が本拠地を置く地域でしか視聴率や関連ビジネスが成立しないローカル・コンテンツとなっています。米大リーグで活躍する大谷翔平選手を思い起こしてください。大谷翔平と日本のプロ野球、どちらが全国的な話題となって注目されたでしょうか。大谷選手のホームランや投手としての勝利が日本のプロ野球が束になっても勝てるかどうか。

 プロ野球のコミッショナーは、プロ野球の良心として時々の話題や問題解決を判断し、球団や選手などに採決を下す役割です。球団ビジネスに直接関わるわけではありませんから、プロ野球の浮沈の責務を問われるわけではありませんが、榊原さん自ら認めている通り、野球ファンを今後いかに増やすかが期待されています。こちらも果たして財界の重鎮が適任かどうか首を傾げてしまいます。

日商は中小企業を代弁してきたのか

 財界人事も同じ発想を感じます。11月、日本商工会議所の会頭に小林健さんが就任しました。三菱商事の社長、会長を歴任して現相談役の73歳。前任は日本製鉄名誉会長の三村明夫さん。日商には全国123万社が参加し、同時期、会頭に就任する東京商工会議所と並ぶ中小企業の代表です。大正11年の初代会頭、藤山雷太さんはじめ歴代会頭はいずれも日本を代表する経済人ばかりです。小林さんの会頭就任は大手商社出身として初めてという但し書きがついたとしても、順当とみるべきです。

 しかし、腑に落ちません。日本経済が成長軌道を描いている時代なら、産業の頂点に立つ大企業のトップ経営者が日商をリードするのはわかります。日本経済が下り坂にあり、今後の成長力にも陰りが目立つ今、大正時代から続く財界人事を踏襲して良いのでしょうか。財界活動には人材、カネが必要です。中小企業に財界活動する余裕があるわけがありませんから、会頭がどうしても大企業出身者になってしまう事情も理解します。

 ただ、日商・東商がどこまで中小企業の声を代弁してきたのかよくわかりません。むしろ財界人事の弊害に目がいってしまいます。直近の悪い例でいえば東芝です。財界トップを東芝出身者ばかりが占めた時期、東芝出身者の先輩・後輩の互いに足を引っ張り合い、それが東芝本体を経営破綻寸前に追い込む引き金になったぐらいです。

日本を変えるには前例踏襲を捨てる勇気

 日本を代表する組織、財界は当然ながら、日本をリードする責務を負っています。日本経済がさらなる苦境を迎えようとしている今、過去の成功例や栄光に酔っている余裕は全くありません。日本には「波風を立てない」のが見識となっていますが、今は波風を立てて、日本の新しい道筋を見つける時です。誰も異論を挟まない、あるいは反対しにくい決断を捻り出す手法として前例踏襲があります。まずは前例を捨てる勇気が今、求められていると思います。

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