長岡花火

日経平均5万円 34年ぶりにバブルの蜃気楼を見る 日本企業の実力は本物か幻影か

 「ついに」、いや「ようやく」というべきか。日経平均株価5万円の声が出始めました。

会社四季報の主見出しに

 東洋経済新報社の「会社四季報オンライン」で「将来5万円台になっても驚く必要がない」という見出しが躍っていました。記事の筆者は平野憲一さん。立花証券などを経て現在は株式市場のアナリストとして活躍され、私が以前に勤めていた新聞社のグループ会社のテレビ番組でも解説をお願いしていました。当時、日経平均にようやく活力が戻ってきた頃です。石の如く1万円前後に固まっていた厳冬期を過ぎ、1万円台から2万円台に向かっていました。

 東証の市場活力がまだ脆弱なころです。マーケットは一進一退が続き、3万円台は遥か遠い向こうの霞からさらに彼方にあるように思えたものです。平野さんは、どんなにマーケットが沈んでも常に新しい材料を見つけ出し、これからの先行きに明るさと自信を示し、個人投資家を励まし続けます。「かならず株価は上昇へ転じる」。株式市場への情熱にいつも脱帽していました。

 その平野さんが会社四季報オンラインで解説していました。要約すると次の通りです。

 兜町には平成バブル崩壊以降、都市伝説になっている株価理論がある。それは「東証1部の時価総額は名目GDP(国内総生産)の1・41倍を超えられない」というものだ。日経平均の最高値を記録した1989年はちょうど1・41倍。「高値は名目GDP比で1・41倍を2度と超えられない」。兜町の都市伝説ができあがった。

兜町の都市伝説に従うと、5万円超え

 平野さんは、兜町の都市伝説に従って2023年7月現在の市況をもとに換算します。答えは、日経平均5万2270円。

 平野さんは「ここまで数字を並べ立てた。もちろん、これからバブルが起きるかどうかはわからない。だが、インフレ経済がようやくスタートした日本の名目GDPは、2024年だけでなく、2025年も2026年も増え続けるはずだ」と考え、「先述の目標値である『5万円台』はちょっと乱暴な設定だといわれるかもしれないが、『今回の相場は1年や2年では終わらない』という筆者の考えの基本だと思っていただきたい」と予想します。

 この予想が当たるかどうかはわかりません。四季報は上場企業の決算情報などを仔細に分析して、株価動向を読む材料を提供するメディアとして人気を集めています。「5万円」という数字を主見出しとして飾ったのも、株価の先行きに自信があるからでしょう。

1989年末にも5万円の予測が

 久しぶりに「5万円」を見て、バブル経済崩壊前夜のテレビ番組を思い出しました。過去最高値は1989年12月29日の大納会でつけた3万8957円。年末の経済番組で、ある証券会社のアナリストが解説しました。「この勢いはまだまだ続きます。上昇トレンドを分析すれば、来年は日経平均5万円が手に届くのは確実」。偶然、テレビ番組を視聴していましたが、思わず飲んでいたビールを噴き出しそうになりました。

 日頃の企業取材で感じていた日本経済は全く違いました。多くの数字は異常なほど上昇していましたが、体感温度は過熱を超え、常識で判断できない経済論理がまかり通っていました。「こんな状況が続くはずがない。5万円は絶対にない。あまりにも楽観すぎる」と確信していまいた。

 年明けからの市況はもう地滑り状態。バブル経済の崩壊の始まりです。以来、8000円を切る水準まで落ち込んだものの、33年ぶりに3万3000円台まで戻りました。もっとも、米国のダウ平均はこの30年間で10倍以上も上昇しているのですから、日本の株式市況の弱さにはため息をつくしかありません。

上昇力は海外投資家の買い越し

 33年ぶりの株価水準に戻ったとはいえ、今後の上昇力に力不足を感じます。上昇圧力の要因をみてください。東京証券取引所が上場基準の改革に合わせてPBR(株価純資産倍率)1倍割れの状況改善に動いたほか、さらに米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏ら海外投資家による積極的な日本株買いがあります。

 日本企業の実力を冷静に眺めてください。基幹産業の自動車や電機から力強い成長を感じますか。電気自動車(EV)の開発・生産で出遅れ、世界一の自動車メーカーであるトヨタ自動車はEV戦略の建て直しに躍起です。かつて世界一だった半導体は台湾などの投資でなんとか巻き返そうとしています。国が主導による「日の丸プロジェクト」が相次いで始まっていますが、裏返せば主要企業の技術開発、投資余力が弱っている証です。

日本企業の実力を反映しているか

 日経平均5万円の見通しを語れる水準に立ち戻ったことは心底、うれしいです。しかし、1989年の年末で吹き出したビールの泡と同様、バブルとなってはじける淡い希望として大事に抱えておきたいです。上を向いて歩き続けましょう。

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