マイナーカード、人口減・・課題は見透せても答を出せない課題未解決国・日本

 『「課題先進国」日本ーキャッチアップからフロントランナー』。

 東京大学総長を務めた小宮山宏さんが2007年9月に出版した本です。ご存知の方が多いと思います。小宮山さんは積極果敢に発言する学者です。本書でも「高齢化と少子化」「人口減」「教育問題」「農業問題」など日本が直面する数多くの課題をわかりやすく説明しながら、「日本なら解決できる」と応援します。

課題先進国と説いた東大元総長

 戦後日本が敗戦の荒廃から乗り越え、奇跡とまでいわれた経済成長を遂げ、世界第2位の経済大国にまで上り詰めました。バブル崩壊などによる疲弊から脱しきれない日本ですが、これまで培った知見、技術などを考えれば日本が課題を先進して解決することは可能。その経験は、近い将来日本同様、同じ課題が待ち構えるアジア各国など世界にとっても解決の糸口を示す良い教科書になるはず。小宮山さんは日本の応援団長として各方面で説き続けました。2007年当時、本書を読んだ私も、そう願いたいと考えていました。

  残念ながら、願いで終わるかもしれません。

 マイナンバーカードを巡る不手際が絶えません。マイナンバーカードの誤登録で別人の公金受取口座に振り込みした事例が相次いでいるほか、健康保険証とマイナンバーカードを一体化する「マイナ保険証」に関しても、別人の情報がひも付けられる誤りも続いています。減らぬ不手際に対応する解決策を打ち出しますが、マイナンバーカード本来の役割を否定する方向に動いているようです。

マイナーカードは必要か

 例えばパスワードが不要のカード発行。介護などが必要な高齢者にとってカードのパスワード管理が難しいとの批判を浴び、パスワード無しのマイナ保険証の発行も取り沙汰されていますが、「それなら現在の保険証のままで良いでないか」との意見が広がり、自民党からもマイナ保険証の一体化の延期を求める声がでています。

 河野太郎デジタル相は「メリットは非常に大きい。医療DX(デジタルトランスフォーメーション)は待ったなしだ」と健康保険証を2024年秋に原則廃止する方針は変更しない考えを示していますが、軌道修正は時間の問題。風前の灯火でしょう。

 マイナンバーカードが代表となって良いのか疑問ですが、日本のデジタルトランスフォーメーションは喫緊の課題です。日本の国際競争力の低下が止まらない理由のひとつとして、政府などの業務効率化の低さが指摘されています。

 日本には優秀な電機・情報技術の企業が多いのですから手間取るはずがないと考えていましたが、今回のマイナンバーカードの不手際をみると、企業のみならず政府、霞ヶ関の考え方が技術以前のレベルで足踏みしていることがわかります。昭和のままなのです。権限、手続きが分散して誰が責任を取るのかが判明しない。今回の不手際も受注先の企業の責任にされていますが、現場を無視して早急にマイナンバーカードの登録増をめざした政府の政策が主因であるのは間違いありません。

人口減対策はもう目を覆うばかり

 長年の課題である少子高齢化も歯止めがかかりません。日本の社会の根幹である人口減は目を覆うばかりの惨状です。2023年1月現在の日本の人口は1億2242万人と14年連続して減少しています。減少幅も前年比で80万人超と1968年の調査開始以来最大。しかも、全都道府県で減少しており、こちらも初めて。15歳から64歳までの生産人口も全体の6割を切っています。

 一方、外国人の人口は過去最多の299万人増えています。日本の少子化傾向はまだ歯止めがかかっていませんから、15歳以上の働き手が増える見込みはありません。外国人が日本人に代わって経済や社会を支える構図が一層、鮮明になるのは確実です。

 しかし、移民政策など外国人の受け入れ態勢は遅々として進みません。入国管理法改正の一連の議論を見ていても、明治以来の外国人排除が前提です。日本の人口減少と構造変化を考えたら、移民政策の本格的な議論は待ったなしの段階にまで来ているのですが、入り口の扉すら開いているのかどうか。

移民対策は遅々として進まず

 国際協力機構(JICA)の推計によると、成長を維持するためには外国人労働者を4倍近くも増やさなければいけないそうですが、制度以前に社会の受け入れ態勢そのものの準備が整っていません。

 業務のデジタルトランスフォーメーションも人口減も、ここ2、3年の話ではありません。1990年代から指摘されており、だからこそ小宮山さんは「課題先進国」の著作を発表しているのです。

 植木等さんの「スーダラ節」が浮かびます。「わかっちゃいるけど、やめられない」。いやいや、今の日本は「わかっちゃいるけど、できないんだ」でしょうね。

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