独り立ちできない日産、 ルノーと別れたら今度はホンダ、鴻海は「噛ませ犬」か
大嫌いな仏ルノーと20年以上も我慢し我慢して生活し、ようやく縁を切って新たな人生に踏み出したら自身の稼ぎの無さに呆然。困り果てて周りを見渡したら、ホンダが目の前に。数少ない味方である銀行や経産省は「今度は大丈夫」と背中を押す。自ら経営改革できない日産です。選ぶ余裕はなんて・・。一緒になれば10年は無理としても、5年はなんとか。「台湾の鴻海も狙っている」とホンダを急かす仕掛けは見事に成功。クスッと笑う誰かがどこかに。
同じ再建劇を繰り返す
ホンダと日産自動車の経営統合をみていると、どうも胸の内のモヤモヤが消えず、すっきりしません。1990年代から繰り返される経営再建劇を配役こそ違いますが、同じ舞台を何度も見せつけられた思いです。「日産はなぜ巨額の赤字を何度も計上するのか」「日産を安心して任せられる経営者はいないのか」。観客席に座っていると、そんな素朴な感想が湧き上がってきます。
開幕は1999年3月。ともに瀕死寸前だった日産とルノーは日仏政府の支援で資本提携に合意。両社はひと息をつきます。ただ、両社対等の精神で提携したはずなのに、ルノーが日産を救済したとの構図から経営の主導権はルノー側に。
ルノー副社長だったカルロス・ゴーン氏がCEO(経営最高責任者)として送り込まれ、「リバイバルプラン」を作成して次々と実行に移します。「まるで魔法を見ているようだった」と日産幹部がため息を吐く間もなく、2兆円あまりの債務を抱えていた日産はV字回復。コストカッターの異名を持つカルロス・ゴーン氏は日産の経営改革のみならず沈滞する日本企業を立て直すヒーローとしてもて囃されました。
日産社内の空気は違いました。「こんな経営は日産ではない」。日産系列の部品メーカーと縁を切り、鉄鋼メーカーなどとも取引慣行を捨て去り、価格重視で決定します。新車開発などの投資は大幅に縮小され、新車戦略も大きく変わります。日本の自動車産業をリードしてきたという誇りはズタズタに。「ルノーに乗っ取られる」。
日産の再建が軌道になったにもかかわらず、奇妙な危機感が日産の生え抜き幹部に共有されるようになります。そして、カルロス・ゴーン追放劇のシナリオが書き始められました。
カルロス・ゴーンは独裁者のように
ヒーローの結末は突然でした。2018年11月、東京地検特捜部は金融取引法違反、特別背任の容疑で逮捕。ルノーの強権を盾に日産の独裁者のごとく振舞ったカルロス・ゴーン氏は会社に多大な損害を与えたことを理由に解任されましたが、本人は海外逃亡へ。日産が再び危機の渦中へ。従業員や取引先は泣くに泣けません。
それからルノーからの呪縛から逃れる交渉が始まりましたが、24年後の歳月が必要でした。23年11月、ルノーは日産の出資比率を43%から15%へ引き下げ、ルノーと日産は互いに15%を出資する対等な関係に移りました。
それからわずか1年後の2024年12月、ホンダと経営統合の道を選択します。ルノーの呪縛を逃れた意味はなんだったのでしょう。何を求めてルノーとの資本関係を見直したのか。今となっては不思議です。
鴻海の買収情報でホンダの背中を押す
ホンダとの経営統合も成算はあるのでしょうか。2024年3月にEVで協業することに合意してから12月に経営統合を検討するまで1年も経過していません。水面下で台湾の通信大手の鴻海による買収構想があったそうです。日産の株価が経営不安で下がったのを機に、買収に乗り出すとの情報が流れ、ホンダが経営統合の決断を急ぐ必要が生まれたとの解説もあります。
鴻海は、iPhoneなどの組み立てで知られる世界的な受託生産会社ですが、最近はEVにも進出しています。2023年10月に開催した東京の自動車ショーで展示車を見ましたが、まだ初期モデル。BYDなど中国のEVに太刀打ちできるレベルではありませんでした。EVへ本格的に進出するなら、日産買収も必要でしょう。シャープを買収した鴻海です。躊躇しないでしょう。
しかも、EV事業の責任者は日産で有力な社長候補だった関潤氏がいます。カルロス・ゴーン氏の追放劇の後に就任した西川廣人社長は1年足らずで不正報酬をめぐる責任をとって辞任。その後を継承した内田誠社長とともに日産を支える人物でした。ところが、突然に辞任を決め、社外へ。本人は日産社長になるつもりだったかもしれません。その後、日本電産の社長候補としてスカウトされましたが、再び辞任。鴻海に入社していました。関氏なら日産を買収しても経営はできるかもしれません。
しかし、日産はシャープと違い、日本経済の基幹産業の自動車メーカー。経済安全保障の観点からみても、政府が認めるわけがありません。仮に鴻海が日産買収を正式に発表しても、経済界も反発したはず。ホンダが急いで経営統合を決めるほどの急な事態だったのか疑問です。ホンダの決断を促す「噛ませ犬」の役割としてうまく使われた気がします。
ルノーの資本提携から25年、はっきりとわかったことが一つありました。日産はもう独り立ちできない自動車メーカーになってしまったことです。