賃上げ3%は100%達成せず!政治・経済が示す新たな困窮

 日本銀行は2022年7月21日の金融政策決定会合で大規模な金融緩和政策を継続することを決めました。注目点は2点。まず2022年度の物価上昇率の見通しを2・3%に引き上げました。もう1点は「賃上げが物価上昇率に追いついていない」と言及したことです。物価上昇率は就任10年目を迎えた黒田東彦総裁が目標に設定しながらも手が届かなかった水準です。意図したシナリオと違ったとはいえ、2%超となります。

 本来なら物価上昇と合わせて賃上げ率が拡大するのが理想のシナリオ。目標にはまだ程遠いのが実情です。今年の春闘で政府、労働界が賃上げ3%超を連呼していましたが、結果も反省もいまは全く聞こえてきません。日本が直面している政治と経済の無策、あるいは困窮を目の前に突きつけられた思いです。

物価上昇は目標達成?賃上げはほど遠く

 昨年から続く食品などの値上げ、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の上昇などを踏まえて、日銀は今年4月時点で物価上昇率を1・9%と予想しました。7月の政策決定会合ではその後の情勢を加えて0・4ポイント引き上げました。年度物価見通しが2%を超えるのは、消費税増税の影響を受けた14年度を除けば、比較できる03年度以降で初めてになります。

 黒田総裁は同日の記者会見で「物価や賃上げに対する非常に慎重な考え方は完全には変わったとは見ておらず、まだ不十分だ」との認識を披露。この時点で円安阻止に向けた利上げを想定すれば「大幅な金利引き上げになって経済にすごいダメージになる」と説明。「金利を引き上げるつもりは全くない」と強調しました。

 物価上昇と連動して常に言及する賃上げについては「賃金の上昇が進んでいることは事実だが、現在の2%程度の消費者物価の上昇には追いついてない」と明言。経済成長と物価上昇が安定して上昇するためには「今年の冬のボーナスや来年の春闘などでもう一段の賃上げが必要だ」と会見のたびに登場するフレーズを繰り返します。

 物価上昇の中身については議論はありますが、目標の2%超を達成しました。残るは賃上げの番ですが、相変わらず足踏みを繰り返しています。政府も労働界も今年の春闘は3%を超える目標をめざしていましたが、失礼ながら予想通り到達できませんでした。連合が7月5日に発表した加盟組合の状況によると、月例賃金改善(定昇維持含む)を要求した 5,361 組合のうち中5,071組合が妥結。賃上げを達成した組合は2,021組合で全体の39・9%。組合数でみると2018年時の2,010を上回り、比率では2014年時の40・4%に次いで高いと成果を強調しています。2022年時の数字と比較すればすぐにわかりますが、2022年の賃上げ闘争はそう盛り上がったわけではないようです。

連合調査では賃上げは2%

 賃上げ率をみてみます。平均賃金方式で回答を得た4,944組合でみると、定昇相当込み賃上げは加 重平均で6,004円、2・07%増 。昨年と比べると、824円増え、比率では0・29ポイント上昇しました。このうち組合数300人未満の中小企業は3,596組合で金額は4,843円、1・96%増。昨年と比べれば555円、0・23%増となります。金額ベースでみると健闘したと思います。しかし、中小企業と大手企業との格差は縮まりません。

 連合のみならず政府も野党も、そして経団連も2022年の春闘で3%超をめざしていたはず。岸田首相も昨年から賃上げ3%超と何度も強調していました。世界情勢が大きく激変しているとはいえ、誰かが3%超を達成できなかったことを、誰かがもっと説明する必要があるのではないでしょうか。1ドル139円台という24年ぶりの円安水準に直面している日本は2022年末まで物価が上昇するのは確実。欧米各国の中央銀行が利上げを繰り返している中、日銀が利上げを拒む理由として賃上げを指摘しているのです。

誰も信用しない政治・経済は日本の未来をより不透明に

 賃上げ結果は予想通り2%程度。コロナ禍でかなりダメージを受けている中小企業が2%近くまで実現したのは特筆すべきですが、大企業はどうなんでしょうか。今年の春闘は今回で役目を終えてしまうのではないかと思っていましたが、その通りになりそうです。

 それよりも誰もが日本で3%超の賃上げが実現できるわけがないと諦めてしまうことが恐ろしいです。連呼される政策が実行されないことには慣れています。しかし、賃上げは生活、国の経済力、未来の日本創造に直結します。世界各国に比べて日本の給与が低下していることがたびたびニュースになりますが、3%超の賃上げが実現できない日本経済の将来をだれが期待、あるいは信用するのでしょうか。日本の政治・経済が100%困窮に陥っている現状を目の前にする今、より不透明な未来に向かって進む覚悟を持つしかありません。

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