ポカラ 村上春樹の「世界の終わり」の脱出口、滝に着く ナマステ⑤
少年の薄いサンダルの裏底を目標に追いかける
少年の足に吸い付くサンダルの裏底を目標に歩き始めました。薄い裏底が生き物のように地面と蹴り上げた時に生まれる10センチほどの空間を行ったり来たり。メトロノームを眺めているようで、スニーカーより優れているように思えてしまう。不思議です。
水牛がのんびり散歩している中、空から強い日差しが刺さってきます。お昼過ぎになったのか、強い太陽光と紫外線をはっきりと肌で感じます。痛さも時折。ようやく麦わら帽かなんか被っていたら良かったと気づきました。ただ、気温は心地よいぐらい。「まあ、良いかぁ」といい加減に考え、自然を甘く見たツケが夕方に知ります。
地面が割れてきました。歩いて20分ぐらい。風景が変わってきます。さっきまで水牛が水浴びできるぐらいの水溜りのそばを農地の用水路みたいと見ていた水流がだんだん深く広く姿を変えていきます。「へえ」と驚いている間に深い岩の割れ目が広がり、水流は激流に変わり始めました。川岸の岩が巌に見えてきます。
案内を買って出てくれた少年はあのサンダルで岩の上を歩き回ります。岩肌は水しぶきで濡れています。私が岩の上にのったら、ステンと転ぶでしょう。でも、少年はサンダルで「ピタ!、ピタ!」と音でもするかのような吸い付きを感じる確かさで岩肌を歩き回ります。
「おい、転ぶから危ないよ」と言いたいぐらいです。さっきまで用水路だった川の流れは深緑に包まれた渓谷の中を走っています。岩肌から転んだら、這い上がって来れないでしょう。
少年は岩を飛び移りながら、振り返りこちらを見て笑います。「こんなことできないだろう」と言っているのかな?「うん、できないよ」と素直に答えます。ヒマラヤを登山した人が言っていました。「ネパールの子が履くサンダルは、日本で売っているサンダルと違うのかと思うよね」。