「リキシャ」が走るニューヨーク、EVを追い抜く究極の脱炭素社会に疾走
ネパール・カトマンズの風景がよみがえりました。いや、インド・カルカッタ(現在のコルカタ)が相応しいでしょうか。5年ぶりにニューヨークを訪れ、タイムズスクエアなどマンハッタンの中心街を歩き回ると、「リキシャ」が走り回っていました。大通りや路地などあちこち。交通渋滞で車がびっしり詰まった道路でも、タクシーのイエローキャブ横を90度にハンドルを曲げてすり抜けていきます。
マンハッタンといえばイエローキャブで道路が埋め尽くされる風景がすぐに思い浮かびますが、リキシャとイエローキャブが並んで走る風景を目撃するとは予想もしませんでした。40年以上前、車と人間とリキシャが溶け込んだカオスと混沌の極みを前に呆然としたカルカッタがニューヨークにそのまま降臨したのかと思いました。
リキシャが中心街のあちこちに
リキシャは、日本が発祥の交通機関、人力車。明治時代に日本で誕生し、1919年にはカルカッタでも普及し始めたそうです。ニューヨークでいつから普及したのかわかりません。40年以上も前の1980年代からニューヨークを訪れていますが、見た記憶はありません。前回訪問の5年前には絶対に走っていたはずですが、残影もありません。不思議です。
しかし、今回はリキシャが溢れています。きっと東京・浅草より多いでしょう。海外からの観光客で大賑わいのセントラルパークからタイムズスクエアまでを歩いて、リキシャを数え始めればすぐに10台を超えます。昼も夜も同じです。こんなに多いのに、間近に近づいてきても「乗らない?」と声をかけてきませんから、お客さんには困っていない様子です。
ニューヨークのリキシャも基本形は同じ。運転手が乗る自転車に客を乗せるリヤカーのような台車が備え付けられています。台車には2、3人が乗れる座席のほかに日差しや雨を除ける幌がついていますが、統一のカラーなのでしょうか、かなり濃いピンク色に染め上げられています。夜になると電飾となって光り輝き、遠くからもリキシャが走っているとすぐにわかるので、黄色一色にペイントされたイエローキャブに対抗したのでしょうか。
東京・浅草と料金は同じ?
たまたま乗ったタクシー運転手に「リキシャはライバルにならないの?」と尋ねたら「利用する目的や移動距離が違うから、気にならない」と教えてくれました。でも、「思ったよりもお金が掛かり、高いのに驚くよ」と苦笑していました。
確かに観光案内などを見ると、1時間の観光案内で30〜50ドルぐらい。日本円なら5000〜7000円以上。浅草の人力車が30〜90分で5500円ぐらいだそうですから、相場は同じ感覚ですか?
昔、カトマンズでリキシャに乗ったことがあります。座席は揺れるし、車と接触するなどちょっと怖い経験でした。車が溢れるニューヨーク・マンハッタンなら、もっと怖いと思いましたが、渋滞が当たり前なので車の走行スピードは遅く、カトマンズやカルカッタよりもリキシャは安心かも?近距離だったら、Uberよりも手軽に使えるかもしれません。
ちなみにタクシー料金は、JFK空港からマンハッタンの中心部までタクシーで100ドル程度、1万5000円が目安。ニューヨークの物価は日本に比べて全てが高いので簡単な比較はできませんが、どんなに渋滞しても変わらない料金なので安心といえば安心。今回はたまたま国連に世界各国の首脳が集まる会議と重なり、これまで経験がない大渋滞にハマり、2時間以上もタクシーに閉じこまれましたが、運転手と雑談し、ゆっくりとマンハッタンに向かう風景を楽しむことができました。
EVもあちこち
幸運だったのは、隣の車線を疾走するテスラの「サイバートラック」を見ることができました。2023年末から発売された電気自動車(EV)で、三角形を組み合わせたデザインとステンレススチールの地肌を生かしたトラックは、写真やネット動画で見るよりもとてもクール。ニューヨーク市内を走るEVは、テスラの乗用車だけでなく欧州、韓国のメーカーのEVをよく見かけました。中心街の駐車場には充電設備を示す看板もあちこちに。
日本ではEVはまだ珍しい存在ですが、日常生活に定着している印象です。米大統領選の真っ最中だったので、地球温暖化による気候変動、CO2を排出しないEVで打撃を受ける自動車産業の雇用問題などがテレビのニュース番組で話題になっていました。
40年前、初めてニューヨークを訪れた時、タイムズスクエアをちょっと離れた通りに入ると治安は一変し、歩道はゴミだらけ。夜、歩く観光客は稀でした。今はあちこちにパトカーが配備され、ゴミの散乱はほとんどありません。「あの通りを超えて行ったらダメ」と言われていた地区は人気レストラン街に。昼も夜も観光客で溢れています。
リキシャはEVを上回る究極の脱炭素車。自転車を漕ぐ運転者の吐息からCO2が出るぐらい。ピンク色の電飾で走り回る風景は、ニューヨーク社会の仕組みがちょっと変わり始めている予兆だったら、面白いなあ(笑)。