来春の賃上げ、中小企業は大手の大幅賃上げに追いついていけるのか
2023年の賃上げは春の嵐となるのでしょうか。サントリーホールディングスは来年の春闘でベースアップを含めて6%賃上げする方向です。大企業は急激な物価上昇を考慮して、すでに業種を問わず一時金を支給したり、年収引き上げを実施しており、来年の春闘では5〜6%の賃上げ目標が交渉の俎上にのぼるかもしれません。
来年の春闘は5〜6%が目標に
しかし、中小企業はこの賃上げの流れに乗っているのか疑問です。政府は2022年の春闘でも3%の賃上げを呼びかけましたが、不発に終わりました。年明け以降、さらに厳しさを増す経済状況を考慮すると、大企業と中小企業の賃上げ、そして年収格差は一段と開く可能性が大きい。
連合は2023年の春闘で5%程度の賃上げを要求する方針を決めています。1995年以来の高い要求水準です。石油や天然ガスの価格高騰を受けて電気代やガス代も大幅に上昇。昨年から続く輸入農産物のコストも上がり続けており、食料品を筆頭に値上げラッシュが続いています。10月の消費者物価は前年同月比で3・6%も上昇し、1982年2月以来40年8ヶ月ぶりの上昇幅を記録しました。
金属労協も6000円以上と倍増
連合の中核組織である金属労協もベースアップ(ベア)を月額6000円以上とする要求方針です。自動車や電機など主要な産業別労働組合として春闘を主導する立場です。賃上げ要求目標を伸び率で掲げることをやめ、金額表示として6000円に設定していますが、2022年の3000円以上に比べ2倍に積み増しました。2015年以来8年ぶりに高い水準です。
高水準の要求をめざすのは、実質年収の低下が始まっているからです。2022年の賃上げ幅は2%程度。2022年に入って、これだけ物価が上昇すれば実質的な所得は低下します。感覚的な収入減というよりは、単純な引き算で考えても間違いありません。連合の5%賃上げ要求でも不足だという指摘もありますが、 この10年間2%程度の賃上げが精一杯だったことを考えれば、まずは5%の目標をどう達成するのか、それともできるのか。スタートラインは予想以上に厳しい状況です。
大企業と中小の経営力の差は広がっている
日本経済が息を吹き返すカギを握るのは、中小企業です。大企業は大幅賃上げを表明しているものの、カギを握る中小企業が2%以上の賃上げができるでしょうか。
連合の調査によると賃金水準は1997年をピークに長期低落傾向にあり、1997年を100とした個別賃金指数は2020年は95にとどまっています。
また、大企業(1000人以上)社員の所定内賃金は97年に比べて2020年はマイナス8700円なのに対し、中小企業(10~99人)の社員は2万1300円も落ち込んでいます。
経営規模の差は賃上げの余力に大きな差をもたらします。大企業は内部留保はたっぷり。財務省が発表した法人企業統計によると、大企業の内部留保は2021年度末で484・3兆円となり、前年度末と比べ17・5兆円増えました。これまで守りの経営を貫いてきただけに、人材採用などを考えれば賃上げや年収増をアピールする必要があります。大手は余力があります。
これに対し中小の経営環境はすでに真冬に突入しています。円安や世界、日本の経済が不況に突入する可能性が高い2023年にあえて賃上げできる経営判断ができるのか。とても疑問です。
このまま中小企業は取り残されるのか。政府も連合もこれまでのように掛け声だけで済ますわけにはいきません。大企業と中小企業の賃上げ格差はそのまま、社会の歪みをさらに拡大する引き金となります。
すでに春闘というイベントにわずかな希望を託す気持ちはありません。しかし、政府も労働組合も、今度こそ従来と違う賃上げを実行しなければ、日本は奈落の底を覗くことになると覚悟しなければいけません。